2017.05.19
彼らを貫く「過ぎてゆく時間」の物語とは?
Sentimental boys(ロックバンド) × 鶴岡慧子(映画監督)
映画への強いこだわりを感じさせるSentimental boysのミュージックビデオ(MV)。作詞・作曲を手がける櫻井善彦(Ba.)は8年間、映画館で働いたというが、彼らのMVからは映像への造詣の深さが伺える。「春のゆくえ」「グッドバイ」「青春が過ぎてゆく」のMVを手掛けたのは映画監督の鶴岡慧子。『くじらのまち』(2012年)でPFFアワードグランプリを受賞。『過ぐる日のやまねこ』(2015年)で劇場デビューを果たした女流監督だ。ともに長野県上田市出身の同い年という間柄の彼らが、いかに共鳴し合い、3本のMVを作り上げていったのかに迫る。
『グッドバイe.p.』のエンディングとして描かれた「青春が過ぎてゆく」
1stミニアルバム『青春が過ぎてゆく』は、2016年6月にライブ会場限定でリリースされた3曲入りのシングル『グッドバイe.p.』に新曲2曲を加えた作品。『グッドバイe.p.』にある物語性と根底でつながっている続編のような曲を加え、完全版を目指したという。その核となったのがタイトルナンバーの「青春が過ぎてゆく」だ。
-『青春が過ぎてゆく』は『グッドバイe.p.』で聴かせた物語の続編ということですが、何かやり残したことがあったんですか?
櫻井
いえ、『グッドバイe.p.』は3曲で1つの物語が完成しています。だから、「その物語にもし続編あるとしたら?」という発想を膨らませて、まず、核となる曲として「青春が過ぎてゆく」を作ったんです。
-イントロからして「始まりの情感」を感じさせる「グッドバイ」に対して、「青春が過ぎてゆく」には、濃密な青春映画のエンディングを思わせるような座りのよさを感じました。
櫻井
エンディング感は狙いましたね。「グッドバイ」が1曲目で、「青春が過ぎてゆく」で締めるようにしたかったので。
-今作でサウンド的に挑戦したことは?
堀内拓也(Gt.)
まず、『グッドバイe.p.』でのテーマは、同じフレーズを機械的に繰り返すループ感だったんです。
櫻井
1stアルバムの『Parade』はとにかく熱量、バンド感、人間臭さが全開のサウンドでした。それをやりきったので、次の新しいことに挑戦したくて、『グッドバイe.p.』ではループ感による無機質さを求めたんです。で、今回、新しく加えた2曲では、これまでやってきたバンド感、人間味に無機質さを融合させようとしました。
-ループ感のあるサウンドに乗せて歌うのはどうでした?
上原浩樹(Vo.Gt.)
気持ちいいですね(笑)。ループさせることによって歌が映えるということもわかりました。一定の刻みのなかで、自分の声の置き場所をすごく意識するようになりました。
櫻井
とにかく、このサウンドが自分たちにとっては新しくて、すごく楽しくて、ワクワク感があったんです。ただ、無機質なサウンドと人間臭さの融合もやりきった手応えがあるので、もう次のことに挑戦したい気持ちが、今は湧き上がっています。
憧れは「4人組の男の子」!
Sentimental boysの4人と鶴岡慧子監督はともに長野県上田市出身。しかも同い年だ。
鶴岡監督の小学・中学時代の同級生のひとりが、Sentimental boysの4人と同じ高校に進む。2015年、1stアルバム『Parade』の収録曲「春のゆくえ」のMV作るにあたって、その友人が堀内を介してメンバーと鶴岡監督をつないだ。上田から東京に出てきた5人は、新宿の喫茶店で会った。
彼らは意気投合。鶴岡監督は「春のゆくえ」のミュージックビデオ(MV)を、故・大島渚監督の青春映画『日本春歌考』(1967年公開作)をモチーフにした、4人の若者が登場する物語に仕立てた。このMVにはメンバーは登場せず、4人の若者が役を演じている。
-同郷で同い年。鶴岡監督はSentimental boysに対する印象は?
鶴岡慧子
私は小学生の頃からビートルズが好きだったんです。だから「4人組の男の子」にはずっと憧れがあって。みんなに出会ったときは「いいなあ、4人組の男の子って。素敵だな」って思いました。
上原
その話は「春のゆくえ」のMVを作るときに聞きました。
堀内
4人組の男の子の物語を描きたいって。
鶴岡
その思いはダイレクトにぶつけましたね。すぐに脚本を書いて、「これでいきましょう!」って。大島渚監督の『日本春歌考』がすごく好きだったので、そこに登場するような学ランを着た男の子4人組で物語を作ろう。決定! という感じでした(笑)。
櫻井
鶴岡監督は「作り手」としてのこだわりがすごく強い人。『日本春歌考』に出てくる4人がタバコを吸うシーンを再現したり。僕は作り手のこだわりが見える映画が大好きなので、出会えてよかったなあって思っています。
-出会うべくして出会った。みなさんにはそういう縁がありますよね。Sentimental boysのみなさんは鶴岡監督の映画をどう観ていますか?
櫻井
最初に『あの電燈』を見させてもらったんですけど、世界観が爆発していてすごかった。センスに惚れてしまいました。
上原
僕は鶴岡さんの映画を観ると、記憶を掘り返されるような懐かしさを感じます。そんな物語や映像にグッときます。
-櫻井さんは以前、鶴岡監督のことを「すごいセンスの持ち主。いずれ日本映画をひっぱっていく監督になるんじゃないか」と言っていましたね。
櫻井
あっ、つい口からこぼれちゃった(笑)。
鶴岡
恥ずかしくなってきます(笑)そんなことを言ってくれるのは櫻井さんだけですよ(笑)。
櫻井
鶴岡さんの映画の何が素晴らしいかというと、まず、見た人に登場人物の心情を考えさせてくれる余白があること。それが心地いいんです。あと、ワンシーン、ワンシーン、背景の細かいところも含めて「鶴岡さんの好き」でできているところ。「こういうシーンが撮りたかったんだな!」っていう監督の「少年性」がストレートに伝わってくる映画が好きなんです。鶴岡さんの映画からは、それがすごく感じられます。
-受け手の想像力を喚起させる余白を残している。そういう作品性は、櫻井さんが作る歌と似ていますね。皆まで言うのではなく、受け手の想像力を信じているというか。
櫻井
うん、うん。そうですね。僕は説明しすぎる作品は好きじゃなくて。「わかってるから大丈夫だ。そこまで言わなくていい」って思うんです。
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