2017.05.19

彼らを貫く「過ぎてゆく時間」の物語とは?

Sentimental boys(ロックバンド) × 鶴岡慧子(映画監督)

映画への強いこだわりを感じさせるSentimental boysのミュージックビデオ(MV)。作詞・作曲を手がける櫻井善彦(Ba.)は8年間、映画館で働いたというが、彼らのMVからは映像への造詣の深さが伺える。「春のゆくえ」「グッドバイ」「青春が過ぎてゆく」のMVを手掛けたのは映画監督の鶴岡慧子。『くじらのまち』(2012年)でPFFアワードグランプリを受賞。『過ぐる日のやまねこ』(2015年)で劇場デビューを果たした女流監督だ。ともに長野県上田市出身の同い年という間柄の彼らが、いかに共鳴し合い、3本のMVを作り上げていったのかに迫る。

MV「グッドバイ」〜ワンカットの映像の先に見えた海〜

 鶴岡監督との2作目のコラボレーションとなった「グッドバイ」のMV。「グッドバイ」は、「夜」と「東京vs自分たち」をテーマにしたアルバム『Parade』を作り終え、もっと自然の風景、例えば昼の並木道が似合う曲を作りたいと思い始めた頃に書いたものだと櫻井は言う。
MVは2016年5月に、神奈川県三浦市の海沿いの町で撮影された。このMVの特徴は長回しの撮影による「ワンカット」の映像で作られていること。カメラを止めることなく回し続けるなか、ひとりの若い女性がひたすら自転車をこぎ漕ぎ続けている。初夏の日差しのなか、何かを探しもとめるように。

-「グッドバイ」のMVを作るにあたって鶴岡監督にリクエストしたことはありますか?

櫻井

「グッドバイ」では、こだわりたいポイントを具体的に伝えました。ワンカットで撮影して、女の子がずっと自転車を漕ぐか、バイクを運転しているっていう。あと、曲のカラーに合わせて、映像の色味は緑に近い青にしたいと。

堀内

「グッドバイ」はループ感が強い曲なので、映像も何かがループするように進み続けているものにしたかったんです。で、そんな無機質な運動のなかに、何かしらのメッセージを含ませたいと。


-具体的なリクエストがあるなか、実際に映像化するにあたってインスピレーションの源になったようなものは何かあったんですか?

鶴岡

「グッドバイ」の歌詞には海が出てきますけど、私は「海なし県」の長野で育ったからか、海辺の町で映画を撮りたいという夢をずっと持っていたんです。海辺で育った子が、海沿いの道を走っているシーンとか。だから、私の欲求と、歌の世界観と、メンバーのコンセプトがうまく合致しましたね。

櫻井

このMVの最後のシーンは、女の子が海にたどり着くんですけど、画面を通して海が見えた瞬間にゾクッとしました。そういうところまでは指定していなかったので、びっくり。あのシーンはすごい。

-あのシーンはハッとしますよね。ぐっと内に溜めていた感情が、パッと開けていくヌケがあります。実際のところ、撮影はどういう風に行われたんですか。

上原

iPhoneで撮影しているのがポイントですね。

鶴岡

「これでいきましょう!」って自撮り棒を取り出して(笑)。

-自主映画の撮影みたいで楽しそうですね(笑)。ワンカットの映像だから、曲の長さにあわせて映像の尺を計算して合わせないといけないし、不必要なものが映り込むと最初から撮りなおさないといけないし、撮影はたいへんだったのでは?

鶴岡

そうですね。ロケハンのときに自転車を漕いでもらって、最後に海にたどり着くまでの距離感を踏まえて、尺を計算してから、撮影に臨みました。ただ、このMVはタイミングも含めて、すべての偶然を拾っていかないといけないなと思っていて。だから、「曲のこのあたりで、この風景が出てくる」と、撮影中に体で覚えながら進めていきましたね。全部で7テイクほど撮りました。

櫻井

ワンカットで撮って、最後までたいしたことが起こらないというような映像はたくさんありますが、このMVにはちゃんと展開があって、「さすが、鶴岡さん!」って思いましたね。

上原

うん。この自転車を漕いでいる女の子は、普段は強がっているけど、自分の弱さに気づいて、海に行くしかなかった。そんな心情が見えてきました。で、最後に「海にたどり着けたんだ。よかった」って。

鶴岡

最後に海が出てくるのは、最初から決めていました。やりたかったんです(笑)。

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