2017.10.03

伝統とは過去を受継ぎ革新を加え続けること

玉川基行(玉川堂七代目当主)

今回赴いた新潟県燕三条は、世界有数の金属加工産地。走る車窓からも様々な金物や金属類の工場、研磨や塗装の現場が目につき、その活性化が伺えた。それは途中、見学をさせてもらったホーロー加工工場からも感受。そこでは高い日本の職人技術力と地方工業活性の理由の一部を伺い知ることが出来た。
そんな中、今回メインで赴いた燕市内にある、200年以上の伝統を誇る鎚起銅器(ついきどうき:1枚の銅板を叩き縮め器状に成形する鎚起の技法を用いた銅製品)の玉川堂は、全国的にも著名な無形文化財の銅器製造メーカー。地元・燕を始め、銀座や青山に直営店を持つ、進展著しい会社だ。
歴代伝播に常に革新を加え、国内外から、あえて地場まで人々を呼び込み活性させるべく標榜している同社。今回のARTICLEでは、そんな玉川堂7代目・玉川基行氏を始め職人にも話を訊いた。何故いま燕三条の産業が活発なのか? 玉川堂が掲げる主義や理念とは? 7代目の話を聞くうちに様々ことに合点がいった。

「ブランド認知度を高め、いずれ世界中の方々から、地元・燕三条まで買い物を来ていただくことが理想」

━玉川堂さんは、コラボレーションにも積極的な印象があります。

玉川

フランスをはじめ、世界の高級レストランで使用されているのが、このルイ・ヴィトン・グループ「KRUG(クリュッグ)」社とのコラボです。フランスと日本の文化の融合を表すように、フランスのシャンパンが日本の女性の着物を着ているというイメージのクーラーです。

玉川堂とKRUG社とのコラボレーションによって生まれたクーラー

━海外戦略も積極的に行ってますもんね。

玉川

私が32歳で社長に就任した2003年から、パリやドイツで開催される海外見本市に毎年出展しています。なかなか成果が現れず、多くの経費と時間を割いたため、社内では疑問の声もありましたが、10年後あたりから徐々に成果が現れるようになりました。現在では、ロシア、中国、韓国、パリなどと取引しています。

━海外のお客様からの需要も多いですか?

玉川

3年前に東京の南青山、今年はGINZA SIX(東京・銀座)にも出店しましたが、売上の半数以上が外国人です。
青山と銀座に直営店を出しているのも、外国人観光客が多い地域を見込んでの出店です。ただ、将来的には売上100%を燕本店で築きたいですね。昨年2016年は、年間で約5500人の方が燕本店へお越し下さいました。本店売上も年々上がっています。

━その内、海外の方々の割合は?

玉川

そのうち約400人ぐらいですね。10年後にはその10倍、4000人くらいは外国人になるかと。これから海外でも直営店を展開したいと思いますが、そこで玉川堂のブランド認知度を高め、最終的には世界中から燕本店へお越しいただき、工場見学をした後にご購入するという流れを作っていきたいですね。

ーあくまでも地場にこだわっておられるようですが、それには何か理由でも?

玉川

燕三条が産学官連携で協力し合い、インバウンドを呼び込みたいのです。職人は最高の営業であると思っています。職人の言葉には説得力があり、お客様と職人の会話は、最高のコミュニケーション手段です。

━御社を始め、この燕や隣町の三条は、金属加工の街ですもんね。

玉川

燕三条地域では工場を解放するイベント「工場の祭典」を毎年開催しているほか、国内外から工場見学へお越しいただけるよう、さまざまな取り組みを地域全体で行っています。

━御社では職人さんや販売員さんに何か財産になるような取組みを行っていますか?

玉川

毎週水曜日は外国人教師をお招きし、英会話教室を行っています。これもインバウンドに対応するための準備です。他にも、月2回木曜日は書道教室、月2〜3回金曜日はデッサン教室を行っています。書道は字が美しくなることはもちろん、日本人としての精神を学ぶ上で重要ですし、デッサン教室は職人として不可欠なモノを観る目を養うための訓練です。

 

いずれは、この燕三条を国際産業観光都市にしたい。その為にも必要な地域の活性化と連携性

━聞くところによると、玉川堂さんは、職人の自主制作の時間として、就業時間以降、作業場や道具を開放しているとか。

玉川

そうなんです。午後5時半までが勤務時間で、それ以降は職人の自主制作や技術訓練の場として開放しています。入社1年目の新人は、仕事中に金鎚を持たせないため、仕事後の自主練習が技術修得の時間となりますし、中堅やベテランは展覧会出品作などを製作しています。それぞれ自分の技術や感性を磨く場として、会社としても夜の自主作業を積極的に奨励しています。

他のこのような伝統工芸的な会社さんでは、「次世代や後継者がいない…」なんて嘆きもたまに耳に入ってきますが、御社はそれらとは無縁そうですね。

玉川

「伝統工芸に人が集まらない」「後継者が見つからない」というのは、ブランディングができていないからだと思います。ブランディングが成されていれば、魅力的な商品開発に繋がり、お客様からも注目され、結果として売上も高まり、応募者も増えていきます。弊社のブランディングはまだまだ未熟なのですが、ありがたいことに毎年多数の応募があり、今年は約60名の応募がありました。そこから毎年1〜2名を採用しています。最近の応募の8割以上は女性です。採用も女性が多くなり、今は女性職人が6名です。昨年、女性職人のチームを作り、「一輪挿し」をテーマにした商品を開発しました。1個28,000円ですが、ヒット商品となり、国内外のレストランやバーでも使用されています。

一輪挿し

玉川

そして、こちらのコーヒーポットは、入社10数年のコーヒー好きの中堅職人がコーヒー担当となり、仕事後も商品開発に明け暮れ、涙ぐましい努力の末、数年がかりでようやく完成したものです。これもヒット商品となりました。

コーヒーポット

完成した際には、直営店でお披露目会を行い、製作を担当した職人が店頭に立ち、お客様から直接反応を聞きます。商品に完成はなく、引き続きお客様の声をもとにマイナーチェンジやフルモデルチェンジを行い、さらなる進化形を目指していきます。

━七代目の将来の夢やビジョンを教えて下さい。

玉川

燕三条を国際産業観光都市へと発展させることです。世界中から工場見学のためにはるばる燕三条へお越しいただき、世界中の観光客と職人が会話することができれば素晴らしいことです。燕本店の周りには玉川堂ミュージアムや玉川堂レストランなども併設して、お客様のおもてなしをします。さらには近郊の旅館や観光名所、酒蔵などとも連携して、新潟県全体の産業が発展することが私の究極のビジョンです。13年後、私が60歳になるまでに実現させたいと思います。

━これからこのような職種を目指している方々に何か伝えられるメッセージがあれば、お願いします。

玉川

私は朝の掃除をとても大切にしています。入社初日から今日まで二十数年間、朝の掃除を欠かしたことはありません。これは是非学生のうちから身につけて欲しいですね。私にとって朝の掃除とは、身の回りをきれいにしたり、先祖への感謝など、さまざまな想いがありますが、最もアイデアが生まれる時間帯でもあるのです。ランナーズハイと一緒で、掃除をしていると気持ちがよく、不思議とアイデアが生まれてきます。これは入社後すぐには分からず、数年続けてようやく感じられたことです。特に新入社員には、一番先に出社し、掃除を行うことが大切であると伝えています。朝の掃除は一見単純作業です。しかし何事も単純作業を単純作業とは思わず、繰り返し続けていくことで生まれる境地があるのです。

愛用品

書道道具

この水滴と筆入れは、4代目が明治時代に製作し、愛用していたものを私が受けついでいます。4代目は東京美術大学(現東京藝大)で彫金を学び、彫金を得意としていました。今後も愛用し続け、次の世代にも受け継いで欲しい玉川家の家宝です。

 

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