2018.07.04
鹿児島に根付く、数学研究出身の絵描きの言葉
篠崎理一郎(イラストレーター)
大学で数学を専攻する傍ら、ペン画によるドローイング作品の制作を開始し、地元・鹿児島をベースに数々の作品を世に送り出してきたイラストレーター、篠崎理一郎。初期には圧倒的なほど緻密に描き切ったモノクロの細密画を描いていたが、現在は日常風景にあるものをモチーフに、緻密で建設的ながらも、観る者の想像力を掻き立てるような余白を描き、柔和な暖かさを感じさせる。そんな進化の過程で、ファッションブランドとのコラボや一般企業の広告、ミュージシャンのアートワークを手がけるなど幅広く活動をしてきた。
LUCKANDでも2018年7月に刊行予定、LUCKAND Free Magazine #006のメインビジュアルを手がけてもらい、秋には東京では初となる個展を計画している。そこで、篠崎のモノづくりに対する姿勢やルーツなどを探ってみた。
「気持ちよく創って、それを発信できる環境が、今は生まれた土地で仕事をするというサイクルになっている」
「Manhattan Portage」とのコラボレーション(2015)
―Manhattan PortageやJohnbullなどのアパレルブランドから、ハートランドビールや無印良品など、幅広い方々とお仕事をされていますが、いわゆるプロのクリエイターとして仕事をするようになっていったきっかけは何だったのでしょうか?
篠崎
学生の頃にも展覧会をやっていたのですが、どうしてもそこで完結するのが嫌だったので、SNSに作品をあげていました。そこから仕事を頂いたりしたのが面白かったので、その当時からイラストレーターと勝手に名乗って仕事を請けていたら、そこから縁ができていった感じです。
―近年では「TK from 凛として時雨」や「THURSDAY’S YOUTH」といったミュージシャンのアートワークもてがけていますね。
篠崎
TKさんとの縁は、それこそネット経由で、たまたまTKさんが私の作品をネットで見てもらったらしく。それで連絡をもらって、2017年秋の”Acoustique Electrick Session”ツアーのグッズ・アートワークを描かせて頂きました。静と動の曲調の幅から、同じ人が歌っているとは思えないような不思議な魅力をどう表現するか、やりとりしながら悩んだ記憶があります。ようやく1つの形に落とし込みができてTKさんと共有した際、僕が心で思っていた同じタイトルを出してくださったので、求められていたことをうまく表現できたのかな、と思いました。
TK from 凛として時雨 / ”Acoustique Electrick Session” Inside T-shirt(2017)
―建築家の方とも作品創りをされたそうですが、やはりこういった面で数学を学んだことやその影響が結びついている気がしますね。
篠崎
そうなんですよ。自分の作品は建築家さんにとても気に入ってもらえるんですよね(笑)。建物が並んでいたり、建築的な絵だったりするからなのか。そういう部分でもやはり自分のルーツに繋がる部分はあるかもしれませんが、全く意識はしていませんでした。
―クライアントの方々は篠崎さんのどういった面を求めて依頼をされることが多いのでしょうか?
篠崎
求める人によって皆さん違うのですが、完璧にこういう感じで創ってほしいというよりは、漠然としたテーマを与えてもらって、結構自由にやらせてもらうことが多い気がします。作品創りを始めた当初は、とにかく完璧なものを描き切りたくて力が入っていたけど、それを経て今は完璧に見せるというより、観る角度によって見え方が変わったり、時間をおいて観ることで余白が変化していくような構成にしています。
―では、ご自分の作品創りとクライアントワークでは、どのような違いがありますか?
篠崎
作品に関しては、今、自分の中で見えないものを掘りさげていくので体力も使うし、ニーズを意識して描こうとすると自分が楽しくなくなり辞めたくなったこともあったので、まずは自分が楽しめるかどうかを大事にしています。クライアントワークに関しては当たり前ですが、何を求められていて、何を伝えなければいけないのか、念頭において制作します。
―なるほど。
篠崎
極端に自分のこだわりに固執すると、仕事の幅も狭めていく気がするので、素直に求められたことをやれば引き出しが増えて、新しい発見もできるので、どちらもバランスよくこなすようにしています。ひょんなことからいろいろ繋がっていくことが多いので、ごちゃごちゃ言わず自分の中でピンと来たことはやっておくことがいいな、と思います。
建築家・辻琢磨氏と恊働作品(2017)
―そんな多忙を極める中でもご出身である鹿児島を離れず、活動し続けるのには何か理由がありますか?
篠崎
理由があるといえばあるけど、ないといえばない気がします。気持ちよく創って、それを発信できる環境が1番スムーズだと思っていたので、そう動いていたら、今は生まれた土地で仕事をするサイクルになっています。ローカルな土地だからこそ、そこにしかないものを再認識できる機会もあったし、変に周りに流されず追求していけば、距離は関係なく伝わっていきます。
―上京したからって成功するわけではないですもんね。
篠崎
そうですね。実際そういう人たちも見ていますし、たとえ場所はどこであろうと、結局は自分が何をするか次第な気がします。InstagramとかTwitterとか、便利なツールが溢れている時代でもあるので、それらをうまく活用しながら、一方でフットワーク軽く、外に出てリアルな体験をすることも大事にしています。
無印良品「Open MUJI」にて展示&ワークショップを実施(2017)
<NEXT 3/3>「ジャンルなどにとらわれないで、言葉にしようがない表現もそれはそれのままとして、素直に吐き出すほうがよい」