2018.07.04
鹿児島に根付く、数学研究出身の絵描きの言葉
篠崎理一郎(イラストレーター)
大学で数学を専攻する傍ら、ペン画によるドローイング作品の制作を開始し、地元・鹿児島をベースに数々の作品を世に送り出してきたイラストレーター、篠崎理一郎。初期には圧倒的なほど緻密に描き切ったモノクロの細密画を描いていたが、現在は日常風景にあるものをモチーフに、緻密で建設的ながらも、観る者の想像力を掻き立てるような余白を描き、柔和な暖かさを感じさせる。そんな進化の過程で、ファッションブランドとのコラボや一般企業の広告、ミュージシャンのアートワークを手がけるなど幅広く活動をしてきた。
LUCKANDでも2018年7月に刊行予定、LUCKAND Free Magazine #006のメインビジュアルを手がけてもらい、秋には東京では初となる個展を計画している。そこで、篠崎のモノづくりに対する姿勢やルーツなどを探ってみた。
「頭に残るデザインには計算された理論の上で構成されている形であることを知り、より奥行きをもって捉える意識ができた」
LUCKAND Free Magazine #006 メインビジュアル (2018)
―大学で数学を専攻し、その頃ドローイングを始めたということですが、この二つの組み合わせは何か意味があるのでしょうか?
篠崎
絵はもともと好きで、小さい頃からよく勉強の合間の息抜きとか、頭の中を整理するような感じで描いていました。あまり関係ないと思いますが、父方の祖父が美術の先生だったらしいです。一方数学は、高校で数学の問題を解くのが好きだったので、興味があって選びました。大学に入ってから、母方の祖父が数学の先生だったというのを後で知りました。
―すごい偶然ですね。
篠崎
大学ではたまたま美術部に入ったこともあり、社会人になったとき1人で続けられる趣味を持とうと思って、18歳の頃くらいからなんとなく作品を描きだした気がします。数学で好きな分野は、パズルとか図形を扱うもので、学んでいく内に頭に残るデザインには計算された理論の上で構成されている形であることを知り、平面的に捉えていた絵に対して、より奥行きをもって捉える意識ができたので、より描くことが面白くなったのを覚えています。
―そういった点で、数学と篠崎さんの絵というのは繋がりがあるんですね。
篠崎
ただ、当時は数学と絵を結びつけてやっていたわけではないですね。周りから「篠崎の絵は理数的だ」と度々言われるので、理由を考えてみると繋がっていったという感じです。未だに完璧に結びついた!とは言えないのですが、やはり近しい部分がありそうだな、と思ってきています。
―自分では意識していないけど、自然とそういった自分のルーツが反映されているものなのかもしれないですね。その後、鹿児島大学の大学院まで進学されたそうですが?
篠崎
その頃は絵で食べていくと思ってなかったので、そのまま大学院に進んだ感じです。ただ、大学院生の時にも同じように絵は描いていました。23歳の時に個展をしないかという話がきて、卒業前の最後の記念、と思ってやりましたね。卒業後、福岡で就職したんですが、仕事をやることでいろいろ思うことが出てきて一年もせずに辞め、鹿児島に戻りまして。そこで、鹿児島市のかごしま文化情報センターにてアートを推進していく仕事につきながら、自分の作品を描き続けていました。
Nowhere(2014)
―ドローイング自体は誰かに学んだり、影響を受けた方はいますか?
篠崎
学んだ、というよりは自然と独りで始めた感じです。ただ、展覧会やプロジェクトに参加して行く中で、様々なアーティストさんの知らない表現に触れ、学んでいったことはあります。影響というか、自分の何かを揺さぶられた表現ということでいうと、ピエト・モンドリアンとマウリッツ・エッシャーですかね。
―現在の創作手法は主にペンによるドローイングで、どちらかというとモノクロが多いかと思うのですが、当初よりそのスタイルは変わっていませんか? 手法の変化などがあれば教えてください。
篠崎
大学での最初の2〜3年は油絵をやっていて、見た風景を忠実に描くことをやっていました。ある時、構図を決める際にラフで紙にペンを動かして、グチャグチャ残していた線をふっと見返したら、これ面白いな、と感じたんです。そんなきっかけで線で見せるドローイングにシフトしていった気がします。そこからは自然とモノクロが多いのですが、元々は色を扱うことが好きなので、最近になってやっと色を使ってみています。
―作品を創造する際のクリエイティビティは、どういったことから?
篠崎
細かいアイデアの基は、木の形だったり、小説の目に留まった言葉だったり、音楽の歌詞だったり、普段の会話の中の疑問とかですかね。それ以外もなんとなく気になったものをメモ帳などに残して、時間を置いてみたときに見返してヒントにしています。
普段から描く時はざっくりとおおまかなイメージ程度に留めて描き始めています。最初から完璧な理想像を決めて描くと、それしか見えなくなって逆にまとまらなかったりします。徐々に線を選んで選択肢を絞っていきながら描くほうが緊張感もあり、結果的に素直な自分の感情を吐き出せる気がします。
ラフスケッチ
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