2018.12.31

信用が生むモノづくり

篠塚将行(それでも世界が続くなら・ミュージシャン) x 吉田ハレラマ(映像ディレクター)

2018年9月、活動休止となったロックバンド、それでも世界が続くなら。フロントマンである篠塚将行が、そのバンドのミュージックビデオを手がける映像ディレクターの吉田ハレラマと対談する形でお互いのモノづくりに対する考え方を語る。また、それでも世界が続くならのグッズ制作を手がけた株式会社ラッカの代表・加藤晴久が進行する形で、三者がどのようにそれでも世界が続くならの音楽活動に関わってきたかにも触れていく。

「ちょっとケンカ売ってるとこあると思いますよ(笑)。アーティストが音源創って、僕は映像創ってる。それって対等なんじゃないか?って」(吉田)

吉田ハレラマが手がけたMV、『イツカの戦争』

加藤

ハレラマさんとの出会いは?

吉田

もともと時乗さん(現所属レーベル・ベルウッドレコードディレクター)といくつかMVを創っていて、「それでも世界が続くならが移籍してきたから、やってみないか」と。

加藤

正直、それせかの音楽性やライブって独特な世界観じゃないですか。あれだけ暗い中でライブをやったり、そもそも照明もないし。

吉田

実は僕、一回もライブ見たことないんですよ。僕は基本的にMVを創ったアーティストさんのライブあんまり見ないんです。そもそもライブハウスにいく人間ではないので。栃木在住っていうのもあるし。逆にもう見ないで行こうと(笑)。

加藤

だとしたら、どういうことろからインスピレーションを受けて創るの?

吉田

音源だけですね。実は最初、めっちゃ断ろうと思ってて(笑)。

篠塚

それ面白いな。

吉田

話がきた時に時乗さんにも言ったんですけど、「ちょっと……これやばすぎじゃないですか」って。やばいっていうのは……なんていうんだろ。単純に、僕はインディーズ・アーティストのMVをやることが多くて。それこそ彼らの「水色の反撃」という曲のMVはバーンとすごい再生数で回転していて、既にバンドの世界観があって、なんでここで僕が入り込むのか。移籍したから流れでやろう、というのだと上手くいかないんじゃないかって。なんか怖そうな人だし、最初超ビビっていたし、全然僕の方向性とも違うし。それでスタジオで「僕はこういうやり方になっちゃうから、今までとは方向性が絶対違くなっちゃうけどいいですか?」って聞いたら、その場で「いいよ」って言ってくれたので。未だにビビりながらやってますけど(笑)。

『水色の反撃』

篠塚

そっか、関わる側から見ると大変なバンドなのか。

吉田

すごい直接的に表現があるじゃないですか。歌詞だけじゃなくて映像にも。音楽に救われた人っているじゃないですか。比較的、僕は幸せな人間なんですよ。音楽に救われたこともないし、そこまで入れこんでないと思う。それで本当に好きな人を見ちゃうとね。そういう人が中途半端に関わらない方が良いんじゃないかと。いつも問答無用に思ってるんですよね。

篠塚

僕はそこが良かったんですよ。そこまで考えてくれる人があんまりいなかったんですよね。表現することやモノを創ることって、ある意味怖いことじゃないですか。レコーディング・エンジニアさんにしてもなんにしても「これなら大丈夫でしょ」って言ってくる人の方が不安で。「俺なんかで大丈夫なんすか?」って人と、僕はやりたかったというか。それに割とエゴがあるんですよ、ハレラマくんて。

吉田

エゴしかない。

篠塚

そこが好きなんですよね。好き勝手やってる時のハレラマくん、すごいんですよ。この話は言っていいかわかんないですけどハレラマくんの作品見ると、これはちょっと流れ作業だなってやつ、わかりやすいんですよ。全然楽しくなく撮ってるなとか。素直なんだよね。制作中に思うことがあると……、

吉田

すぐ不機嫌になる。

篠塚

そうそう。したいことしてる時と、「自分はしたくないですけど」って言う時の不機嫌さの落差が半端ない(笑)。

吉田

もうダメなんですよね。制作始めた当初は隠そうとしていて。できるだけ要望に応えた方が良いと思ってやってたんですけど。でもムカついてきちゃって。もう隠さない方向で。

篠塚

俺、それすごく良いと思うよ。

吉田

しのさんが思っている以上に、僕は他の現場でもっとひどいですからね。

篠塚

そうなんだ。ラッカではそういうことありますか?「こんなのできるかー」って。

加藤

すごく難しいのは、それせかの世界観っていろんなバンドやってるけど一番強くてね。グッズ制作って、物を買ってもらうわけでしょ、お金を出して。僕らデザイナーはどんな人がライブハウスに足を運んできて買うのか把握しないとわからない。自分にとって良いものができたとしても売れないと怖くて。

篠塚

買わないってことはその人にとって良いものじゃなかったことですもんね。結局、判断するのって見ている人、受け取る側ですもんね。

加藤

そこを見て、ファンがそれせかの音楽をどういう風に受け止めていて、どういう気持ちでライブに来て、そこで見つけた物がどうだったら手に取ってくれるのか。これが非常に難しくて。しのくんはこちら側に委ねてくれるので、そこもまたハードルが上がる。

吉田

指示通りにやってるほうが楽ちんですもんね。「ここ何色にして」「はい」って。

篠塚

そうだと思います。「自分で考えて、自分の人生でこれは自分だって思える一番いいモノ出してきて」って感覚で投げてますからね。ある意味最低ですよね(笑)。

加藤

だからこそ「挑戦する」っていうのもある。当然お客さんの前にしのくんがいいねってなって初めてモノになるから、そこもクリアしなきゃいけない。その次に、それせかをすごく聞き込んでいる人たちにも着地しなきゃいけないから、毎回気になるんだよね。現地に行ってみないと気になってしょうがない。

篠塚

僕自覚があるんですけど、僕のバンドがあったから自殺するのをやめたって人がいてくれたりするんです。嘘みたいですけど本当にいて。でも、そもそも俺が人のこと救えんのかって。根本的に僕らに人が救えるかっていう話になってくると、ちょっと疑問になってくるとこあるじゃないですか。

吉田

音楽は聴いた人の自己申告制でしかないですからね。なんでもそうか。

篠塚

僕らの音楽を好きでも嫌いでもどちらでも感謝してるし、好き嫌いや聴いた人が決めてほしいと思うんですよね。ただ僕のバンドに関しては、僕の音楽があったから死ぬのやめたって人もいて、同時に、僕の音楽を聴いてたけど自殺しちゃった子もいる。そこに対して神経質になっているバンドだとは思うんですよね。「人の命がかかっているぞ」って思ってはいるし。そういう意味で「重たいバンドだな」って感じたと思うんですよ。やりにくいというか、気軽ではないと思う。でも、お二人ともその重圧の中で、媚びずにちゃんと自分が創りたいモノを創ってきてくれて、ちゃんと自分のエゴが入ってるものを送ってきてくれるんで。僕はもう本当に感謝しかないです。二人の一ファンとして思うけど、これからも好きにやってほしいです。好き勝手やってるハレラマくんの映像って面白いですしね。

吉田

僕、ちょっとケンカ売ってるとこあると思いますよ(笑)。

篠塚

「君の表現はともかく、俺も創りたいものあるんだけど」ってことだよね?

吉田

アーティストさんと呼ばれる方々が音源創って、僕は映像創ってる。それって対等なんじゃないか?って。

篠塚

それわかる。僕も「対等でしょ」って思ってるんですよ。逆に監督に「どうしたらいいですかね」って来られたら「自分で考えてくれ」ってなってたと思うんですよ。

吉田

僕もそういう人嫌いですね。「やりたくないのかな」って急に不安になっちゃいますもんね。やりたくないんだったら関わらなくていいよって思っちゃう。

篠塚

突き詰めると、「自分のやりたいことは、自分にしかわからない」からね。

ALL TIME BEST ALBUM 2011-2018 『僕は音楽で殴り返したい』

<NEXT 3/3>「一緒にモノを創る相手をもっと信用してみていい、相手を見極めて信じてバカを見ていいと思う」(篠崎)

 

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