2020.05.25
篠崎理一郎 個展 <未来鏡>
篠崎理一郎(イラストレーター/アーティスト)
過去、インタビューにてフィーチャー。フリーペーパー版のメインビジュアルもお任せした、このLUCKANDとも親交の深いイラストレーター篠崎理一郎。彼の個展『未来鏡(みらいきょう)』が現在、東京・阿佐ヶ谷VOIDにて開催中だ。
この『未来鏡』。先のコロナ禍を受け、当初の予定とは展開形態を変化させざるをえない事態が発生。結果、展示方法も作風もこの事態ならではの様相となったことも興味深い。
そんな同個展を独自の視点からレポートする。
篠崎理一郎個展「未来鏡」
■日時:2020年5月21日(木)~ 5月31日(日)
■場所:阿佐ヶ谷VOID http://void2014.jp/
*作品はすべてWEB上での展示・販売 Click!
まず興味深かったのはその展示方法だ。当初は通例通りの一般観覧的スタイルを予定していた、この『未来鏡』。しかし先の緊急事態宣言に伴う密の禁止や不要不急の営業自粛を遵守すべく、店舗営業は状況に応じて判断していくと判断し、まずは5月21日よりWEB展示会的なスタイルが先行で始まった。
このVOIDのWEB展示会は、HP上に今回の展示作品一点一点が全景も細部も分かる写真類にてECサイトに掲載していくスタイル。各絵を見ながら気に入ったら購入できる流れにて運営されているワンストップ型だ。
続いて興味深かった二点目は、その篠崎の『未来鏡』に寄せた新作の類いだ。今回の個展はミニサイズのドローイングを中心に大きなものも含め全80点ほどが展示されている。
「先の見えない暗いトンネルを彷徨うような中で、いま改めて自分が何者であるかを強く意識させられています。変化していく世の中に不安を感じながらも、弱いなりに考え、生き抜いてやろうと開き直った僕です。」と、この展示会を際するにあたり篠崎本人からも語られていた通り、今年に入ってのコロナ禍における緊急事態宣言の折り、篠崎の現在籍地・鹿児島にて自宅自粛生活を余儀なくされた中で描かれた絵画も、今回の個展では多く並んでいる。
「改めて自分を勉強するように、一度この機会に今の気持ちもまとめてみたくなった」とのコンセプトの下、行われている同個展。2017年から現在まで、主に2019年~最近の作品を中心に、そこから彼の絵の特性と変化や流れ、その時々に目指していたこと、念頭に置いて描いていたであろうことが不思議と各絵から滲み出、結果、誠に彼のここ数年の作品の流動と心の機微が、まるで「鏡」のように映し出されたものになったのも印象深い。
「2~3月は気持ちが落ち込んでいた時期があった」と語る篠崎。そんな中、「自分のモチベーションをどう保っていけばいいのかが不安になり、これまでも籠って描いてはいたが、それとは違ったタイプのある種の不安感に苛まれなら自室に籠って描いていた。そしてその感覚をあえて今回の各絵にぶつけてみた」と言葉を続ける。
そんな心情下にて生まれた今回の新作群は主に今年4月から描き始めたものばかり。そしてそれらからは、先の自粛による不安感も手伝い、どこかより個、そして個が大切にしているであろうものが、彼独特の緻密画のなか数多く描かれている。加え自分の中から湧き出た衝動を吐き出したと思しき作風も散見され、従来以上に瞬発力が垣間見れるのもユニークだ。
元々私が彼の画風で注視していたのは、その「街を鳥瞰したかのようなスタイル」であった。その緻密画を眺めているうちに浮かび上がる無数のファクターたちは、目を凝らしていくうちに段々と各所が更にフォーカスされていき、そこに在しているであろう一つ一つの営みのストーリーを私の中で展開させるものがあった。例えば描かれる全体像から街を、そこから更に街中へと目を凝らし、更にその中に建つビルや家を凝視し、その中で生活しているであろう人々へと想いを馳せていく…。加え、私がもう一つ篠崎の絵で特異性を感じるのは、他の緻密画家と違い、彼が感覚ではなく理論的に絵を描いていそうな面だ。そう、彼の画風からは非常に算式や数式的なものも感じる。いわゆるシュールというよりかは幾何学的。他の絵が国語的に幾つもの解釈が読み取れるとしたら、彼の絵は逆に命題や証明的なのだ。いわば、最初に答えがあり、それを各位が紐解き逆算していく類い。言い換えると、他の緻密画家が衝動の行き着いた先に完成を見出すとしたら、篠崎の場合は逆に絵を紐解いていくパターンと言えよう。……と、ここまで熱く彼の過去作を分析してはみたものの、彼の今回の新作群は私にそれらとはまた違った感受を与えてくれた。そう、上述の従来の作風に比べ瞬発力や衝動性が色濃く表れているのだ。中でも印象深ったのは『A』というドローイング作品。こちらは彼の絵に印象深い「街」が描かれていながらも、どこか「情念」みたいなものを感じた。これはこれまでの篠崎の絵からは感じられなかった類いとも伺える。また今回の作品の幾つかには木材をキャンパスにアクリルとボールペンを駆使したものも展示されているのだが、中でも2019年制作の『INSIDER』シリーズは、ドローイングを基調にしながらも、さながらコラージュ作品のようにカットアップメゾッドが施されていたのも、彼のこれまでの作品の中でも新鮮味を感じた。
とはいえ、今回のWEB展示スタイルでは、どうしても彼の絵の楽しみ方の一つである「目を凝らしているうちに浮かび上がってくるもの」が伝わり切れない面もある。彼の絵は神経を集中させ、目を凝らすことにより詰め込まれた多くの情報の中から個を見つけ出し、そこに想いを馳せる愉しみ方がベストだと個人的には思うからだ。しかし、ディスプレイを通してだと、その精密さや繊細さ、しかもキチンと肉筆感もある、CGでは絶対に醸し出せない業みたいな彼の独特さまでもは伝わり切れていないのは否めない。幾らそれをディスプレイ上で拡大しても、肉眼に注力し目を凝らした末に浮かび上がってくる「凄さ」を感じることは難しいだろう。
しかし、逆にそれが更に物足りなさを帯び、結果、「本物が見てみたい!」「本物が欲しい!」とさせる。その辺りとしては有効的な魅せ方だったのかもしれない。
この展示会は5月31日(日)まで行われる。現在のところ阿佐ヶ谷VOIDのHP(Click!)のみでの展開で、そこでは作品群を収録したZINEやステッカー、ポスターなどのグッズをWEBにて展示・販売もしている。ただし店舗営業も状況に応じて判断しているとのことなので、是非HPをチェックして欲しい。
是非この機会にWEBで、そして期間中店舗が営業した際には現物を見て欲しい。篠崎理一郎のこれまでと現在を映したこの「鏡」は、ひいては正直なまでに彼の時期時期の心の機微や趣向、それに伴ってそれらが作品に明確に表れているのに気づいてもらえるはずだから。
Report : 池田スカオ和宏 ;All Coordination&Photo:LUCKAND編集部
篠崎理一郎 Riichiro Shinozaki
イラストレーター/アーティスト。1989年鹿児島生まれ。線画とドローイングを軸に、日常風景や都市、心情変化を日々記録する。近年は広告や映像、アパレルブランド、書籍挿画、ミュージシャンへのアートワーク提供など各媒体にて幅広く活動する。
https://www.reeeeeach.com/
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篠崎理一郎個展「未来鏡」
■日時:2020年5月21日(木)~ 5月31日(日)
■場所:阿佐ヶ谷VOID 東京都杉並区阿佐ヶ谷北1-28-8 芙蓉コーポ102
03-5364-9758 / asagaya.void@gmail.com
*今回の個展の作品はすべてWEB上での展示・販売 Click!