shichigoro-shingo 個展 『INDUSTRIAL PUNK』
■日時：2018年7月3日(火)～2018年7月15日(日)
■場所：ヴァニラ画廊

画廊に足を踏み入れると、壁面には様々な大きさで並べられた彼の作品があり、それが四方を囲まれているかのような錯覚を与え、まずはその空間に圧倒された。
大きさはA4のノートサイズのものから、1m以上もある大判の作品群、さらには立体作品までと様々。それらのイラストレーションはどれも黒の額縁に収められており、作品の大きさやモチーフも色々だが、空間そのものが一つの作品のようにも感じられた。その不揃いさもありながらも感じられた統一性は、shichigoro氏の扱う色彩からの影響も大きいのではないだろうか？ 一見モノクロ一色のようにも見受けられるが、黒の階調を絶妙にあやつり表現しているからこその一貫性を感じ取ることが出来た。

次に興味を惹いたのは、その質感であった。shichigoro氏の作品は着彩よりむしろ、“色を描いている”という表現が当てはまる。時間が経ち、朽ち果てていく途中のようなひび割れや汚れ、その一つ一つの微量な粒子の集まりを用い、独特の質感を表現している感のある彼の作品。その表現はただの崩壊や破壊ではなく、むしろ再生していく未来の姿のようにも受け取れた。

shichigoro氏の作品の中でも、多くの人が目にしているひとつとして、海外でも評価の高い、活動休止中のTHE MAD CAPSULE MARKETS上田氏のソロプロジェクトAA=のアートワークがある。そのビジュアルからは、負の感情や奇妙差が感じられる反面、精密に描かれた無機物（人工物）が美しく、その精密な表現があるからこそどこか安心することができるものが多い。実際、AA=の上田氏との出会いはshichigoro氏に大きく影響したとのことであったが、その出会いから誕生した『INDUSTRIAL PUNK(インダストリアル・パンク)』という本展の題名は、繊細な描写からの迫力、その深さからshichigoro氏の作品とダイレクトに結びつく言葉に思えた。
アートワークが使われたアルバムの楽曲制作も特殊で、アートワーク先行で楽曲が作り出された経緯もあり、無機物の機械的表現のイラストレーションからは、AA=の奏でるインダストリアル的な音が発せられているような錯覚さえおぼえた。

見る人に、いろいろな感情を抱かせる作品達。shichigoro氏の作品は一つのモチーフからでも、悲しみ、不安、希望、喜び、寂しさ、様々な感情を受けとることができる。それは作品の世界に登場する人物が繊細な表情で描かれていることにも関係しているのではないだろうか？ 瞳が象徴的な人物たちは、見る人を惹き込み、部位はあたかも駆動し始めそうである。 その様は例えば、工場群のパイプの集合体を傍観した時に感じた圧倒的な存在感や、カッコよさにも似た感情を抱かせる。

本展示では、AA=『#5』のジャケットに登場した豚モチーフのキャラクターのマスクを含む、ミクストメディア作品も展示されていた。独学で立体作品を学んだとのことであったが、イラストレーション同様のディテールと人物の表情の細部まで表現されていた。
当日は愛らしいパンダのPANGOのキーホルダー等、グッズ販売も行っており、会場ではshichigoro氏自らがライブペイントの要領でイラストの制作風景をモニタ越しに公開しながら在廊もしていた。
海外にも多くのファンを持つshichigoro-shingo氏。その今後の活躍にますます期待を募らせた作品展であった。

TEXT：LUCKAND
PHOTO：ヴァニラ画廊