2019.12.06

一乗ひかる個展「自由と存在」

一乗ひかる(イラストレーター)

広告のビジュアルや装画など幅広いジャンルで活躍中のイラストレーターの一乗ひかる。彼女のイラストは、足や手をクローズアップした迫力のある構図やヴィヴィッドな色使いが特徴的だ。今回の個展のメインビジュアルを含め、どのイラストも健康的で活発な雰囲気があり、世の中を明るくする力がそこには宿っている。そんな彼女の作品が、実は「デジタル」と「アナログ」が駆使されて描かれていると知り、私はまずその辺りに興味を持った。以来、街中や彼女のSNSでその作品を目にする度に、段々と彼女の存在や、それらの作品がどのように生まれてくるのか?にも興味が移っていった。
イラストレーターとして本格的に活動を始めて1年半の彼女。展示会も精力的に行っており、作品を目にする機会もどんどん増えてきている。そんな一乗ひかるの今年最後の個展が、「自由と存在」と題され、12月8日(日)まで東京・原宿のギャラリー・ルモンドにて絶賛開催中だ。展示内容は、「世間の理想的な女性のイメージに対する疑問」から生まれたイラストを、木製のキャンバスや布、紙と、様々な素体にプリントして展示するというもの。他にも彼女が装画を手がけた書籍を見ることができたり、イラストブック、ステッカー、ロンTなどオリジナルグッズも販売されている。
そんな一乗ひかるの個展の模様を以下にお伝えしたい。

一乗ひかる『自由と存在』
■日時:2019年11月26日(火)~12月8日(日)
■場所:ギャラリー・ルモンド

神宮前交差点から小道を少し入った場所にあるギャラリー・ルモンド。同所はイラストレーターのためのギャラリーで、これからイラストレーターとしてキャリアを築いていく方や、さらに活動の幅を広げたい方々の交流の場として運営されている。そんな同所にて一乗ひかるの個展が行われるのは、2018年の夏に続き2度目。今回は「自由と存在」をテーマに、彼女が美しいと思う「人の在り方」が描かれたイラストの数々が並んでいる。展示内容は3つのセクションに分かれており、今昔や国境すらも超えて様々な女性が描かれたイラストが一つの空間に同居しているのが非常に面白い。

まず、入り口から入ってすぐの左側の壁には、服を脱ぎ捨ててありのままの姿でポーズをとっている女性や、様々な国の女性の上半身を描いたイラストが並んでいるのだが、彼女のイラストのタッチによりいやらしさはなく、アートとしてすんなりと入ってくる。中でも、左奥にある様々な国の女性のイラストは、国境を超えた交流が盛んになっている現代日本の状況をも表しているよう。外国の方も自分ごととして楽しめる内容になっており、それぞれが身近にこの展示を感じることができる。そんな自由や混在を感じる展示内容は、まるで「性別も国境も社会情勢も飛び越えて皆で楽しく生きていこうよ!」と言っているかのようであった。

それに対し右側の壁には、昔の錦絵に出てくるような女性が活き活きと働く姿が描かれたイラストが並んでいる。昔の日本を描いたドラマを見ていると、女性の職業や役割は限定されており、あまり職業を選択できなかった印象を受けていたのだが、そんな時代の中でも、家庭に入るだけでなく様々な仕事をする女性が存在していたことをイラストを通して教えてくれた。制限がある時代だったからこそ、より活き活きとした姿に映ったのだろう。

今回の展示テーマの起源には、「誰だって自由なあり方で存在して良いし、自分自身を肯定できる世の中になってほしい」という思いが込められているそうなのだが、今も昔もどこかしらに制限や差別があるからこそ、人は強く自由を求めるのかもしれない。

また、彼女の「デジタル×アナログ」という独特な表現手法にも注目したい。Illustratorのパスで描いたイラストにシルクスクリーンなどで刷ったテクスチャーをスキャンして重ねて作っているようなのだが、現代的でありながらどこか懐かしい雰囲気も漂っており、今と昔を繋ぐような表現が実に面白い。そして、一見カラフルなイラストも近くで見るとCMYK+特色が重なってカラフルなイラストになっていたり、点の密度で明暗差を出していることがわかり、印刷の成り立ちまで知れたりと+αの楽しみを教えてくれる。きっとこの個展に来た方々の多くが、彼女のイラストだけでなく、その表現手法や制作方法など少し深い部分にまで興味が湧くのではないだろうか。

さらに彼女のイラストは、伝えたいことが一目でわかる点が素晴らしい。中央のテーブルに置かれているイラストブックや装画を見ていると、足や手が大きく描かれている独特な構図のイラストが目に留まる。クローズアップしたい点をメインで描いているからだ。以前、彼女はとあるインタビューで、「何を伝えたいイラストなのか」「それを一番伝えられる構図ってなんだろう?」ということを常に考えて描いていると答えていたのだが、この考え方は大学でデザインを学んでいたことや、デザイン事務所で働いていた経験から来ており、デザイン出身のイラストレーターの彼女だからこそ至ったオリジナリティと言えよう。

彼女の経歴を見ると、浪人して入学した大学を中退して別の大学に入学し直していたり、デザイン事務所に入社するも1年で退職しフリーランスのイラストレーターの道を選択したりと、非常に潔ぎよく、判断力や行動力を持った方との印象を受ける。どちらもかなり大胆なチャレンジだからだ。「展示物の制作などは、大学時代の友人たちも手伝ってくれている」とギャラリー・ルモンドのオーナーの田嶋氏が教えて下さったのだが、イラストの素晴らしさだけでなく、彼女の覚悟を持った決断にみんな心を動かされて、「そんな一乗さんのためなら!」「一乗さんと一緒に何か作りたい!」と、自主的に手伝っているのではないだろうか?

展示会場には現在、銀座のクリエイションギャラリーG8で行われている「ふろしき百花店」のフライヤーも置かれている。167人のクリエイターが参加しているそうなのだが、彼女はこの展示のメインビジュアルも手がけている。同時期に同じ東京都内での開催なので、是非原宿から銀座へとはしごをしてみてはいかがだろうか?
今後もさらに街のあちこちで見かけるようになるであろう彼女の作品とその活躍に注目したい。

TEXT&PHOTO:LUCKAND編集部

一乗ひかる
2010年武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科入学、同年中退。2015年東京芸術大学デザイン科卒業。2017年東京芸術大学大学院視覚伝達研究科修了。学生時代にグラフィックデザインを作ってきたこともあり、大学院卒業後はデザイン事務所にデザイナーとして入社。1年間のデザイン事務所勤務後、2018年よりイラストレーターとして活動。2015年第13回1_WALLファイナリスト、2018年TIS公募入選。
http://hikaruichijo.com

 

一乗ひかる『自由と存在』
■日時:2019年 11月26日(火)~ 12月8日(日)
 火〜土曜日12:00〜20:00/日曜日12:00〜17:00
 定休日:月曜日
■場所:ギャラリー・ルモンド
■入場無料
https://www.galerielemonde.com

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