2019.06.14
高木耕一郎×青木昭信二人展「EXOTIC GLEAMING NOISE」
高木耕一郎(アーティスト) x 青木昭信(ミュージシャン、画家)
刺繍とペインティングを中心に、親しみの湧くモチーフながら、クリティカルな神秘性で偶像を表現する高木耕一郎と、インストゥルメンタルバンド「Rega」のベーシストでありながら、絵描きとして日常にある違和感を表現し続ける青木昭信。音楽をバックボーンに持つ両者が現在、中目黒のBRICK&MORTARにて二人展「EXOTIC GLEAMING NOISE」を開催中だ。同展示の速レポをお届けする。
高木耕一郎×青木昭信二人展「EXOTIC GLEAMING NOISE」
■日時:2019年5月31日(金)〜6月21日(金)
■場所:BRICK & MORTAR 中目黒店
メインビジュアル
高木耕一郎「The night has eyes」
青木昭信「Felidae&Rattan Chair」
本展は、刺繍とペインティングという異なる技法で創作した作家の「二人展」。個展でもなくグループ展でもない、この「二人展」という展示の形態は一体どのようなモノなのだろうか?一番分かりやすいのは、作品を共作し展示する形で、一つの作品に二人の創造性が込められるということだろう。また、あるテーマを基に二人がそれぞれ創作した作品同士の場合もあれば、逆に一見対岸のような、作風に全く共通点も見つからない作家同士の二人展というのも面白そうだ。単純に作品を鑑賞するのみならず、二人展の意味や互いに与える相乗効果も想像しながら足を運んだ。
本展の会場となったBRICK&MORTARは、村上美術株式会社が運営するライフスタイルショップ。2014年に中目黒店をオープンし、国や様式を超えたインテリアや日用品、雑貨をセレクトし、販売していた。その後、新宿ルミネでも支店を展開し、現在は日本橋高島屋S.C.店にて、そのセレクトショップを運営している。一方、今回の展示会場である中目黒店に関しては2018年12月、”旬のアイデアを新鮮なまま伝える場所“をコンセプトにリニューアルオープン。アトリエとしてインスタレーションや作品創作を行ったり、ギャラリーとして作品展を開催するなど自由な空間として展開されている。
本展は、インストゥルメンタルバンド「Rega」のベーシストでペインターでもある青木昭信が、BRICK&MORTAR日本橋高島屋S.C.店長でもあることから、村上美術株式会社の創立者でもあり、アーティスト・村上周(あまね)氏の声かけで実現したもの。青木がかねてから高木耕一郎の作品を好んでいたこともあり、村上氏のキュレーションによって開催された。今回の二人展の出発は、高木が青木をイメージして名づけた「EXOTIC GLEAMING NOISE」というタイトルだったそうだ。直訳すると、“異国情緒溢るる、煌めきノイズ”といったところだろうか。そのノイズの正体を追ってみた。
青木は過去これまで、コラージュから始まり、ドローイングやアクリルを使ったペインティングなどへと推移し、その作風もモチーフも時期によって様々である。近年は抽象画を描いており、2017年には自身初の抽象画による個展も開催した。しかし、今回の展示では高木が動物をモチーフに創作を行うこともあり、自身も過去よく描いていたという「猫」をモチーフにしている。猫の顔を最初に描き、その後から背景やその他のモチーフをコラージュ的に足していったという。猫の顔が浮き上がって見えるような違和感。それはまるで、ある空間の、ある一点から強く発せられるノイズのようだ。
高木曰く、今回の青木のモチーフは意外だったそうだ。
「彼の近年の活動からは抽象画のイメージが強く、その抽象画からは音楽が鳴っているのを強く感じた。今回の作品を見て意外だったが、それもそのはずなのは、抽象画を描いていたときは彼がバンドを活動休止していた最中だったとのこと。おそらくその音楽の分が絵として表現されていたのだろう。現在はバンドが活動再開したことで、音と絵がそれぞれの表現に分かれたのかもしれない」(高木)
音楽が消えた分、猫の顔、というノイズだけがやけに心にひっかかる。
一方、高木の作品は刺繍により、動物のモチーフを中心にしていることはこれまでと一貫して変わらないが、やはりその特徴はモチーフの可愛らしさに潜む、刺々しさであろう。青木も高木のそういった点が好きだと話し、また「音楽の匂いがするところがいい」とも語っていた。根っからのハードコア・パンク・フリークだという高木。展示会場でも高木のセレクトしたハードコア・パンクのミックステープが流れている。作品に潜む牙も音楽の匂いも実際会場に流れる音楽も、鑑賞者の心にノイズを鳴らしているようだ。
また、今回動物という共通したモチーフを用いながらも、刺繍とペインティングという技法が異なる点では、互いの作品に対してノイズを発している気もした。例えば、高木の立体的な刺繍作品をじっくりと鑑賞した後に青木の作品を見ると、猫の顔がより浮き上がって見えてくるといったように。
「ノイズ」とは本来あなたが聴きたい、捉えたい物事に対して、雑多であり邪魔な存在として捉えられるかもしれないが、それはあくまであなたが捉えようとする認識の中でのこと。実はそんなノイズの中にこそ、あなたが認識できない本質が存在するのかもしれない。完全な無音状態より、カフェのような喧騒の中でこそ集中力が高まるように、ノイズとは絶対的な必要悪なのだ。そういった「ノイズ」がこの二人の作品には流れている。
展示は6月21日(金)まで開催されている。また、6月29日(土)からはBRICK&MORTAR日本橋高島屋S.C.店でも巡回展を開催予定だそう。ぜひ二人の発するノイズがあなたの心にどんな引っ掻き傷を残すのか、耳を傾けてみてほしい。
高木耕一郎 x 青木昭信共作
Text by LUCKAND編集部
【高木耕一郎×青木昭信 二人展 「EXOTIC GLEAMING NOISE」】
■会期:2019年5月31日(金)~6月21日(金) 12:00~19:00 月曜定休
■会場:BRICK & MORTAR 中目黒店
〒153-0061 東京都目黒区中目黒1-4-4
TEL:03-6303-3300
■会期:2019年6月29日(土)〜7月14日(日)10:30〜20:00
■会場:BRICK&MORTAR 日本橋高島屋S.C.店
〒103-6152 東京都中央区日本橋2-5-1 日本橋高島屋S.C. 新館5F
TEL:03-6262-7679
【高木耕一郎】
東京で生まれ、San Franciscoのアートスクールで様々な素材を学び、しばらくNYを制作拠点にした後に帰国した高木はペインティングから刺繍まで作風の幅は広い。しかし幅広い表現方法において一貫して言えるのは彼の作品はある種の居心地の悪さや矛盾を内包しており、モチーフに「人」がほとんど出て来ることがないことである。
モチーフは多くの場合、動物や擬人化された動物達であり、その表情は時にかわいらしく、時に牙をこちらに向け鑑賞者を睨みつけている。そこには動物を主人公にした作品だからこその匿名性と神秘性が内包され、親近感と違和感が混在する奇妙な居心地の悪さを生む。
高木の作品は揺れ動く人々の心情や抱えている矛盾を描きながら、見た事は無いがあると信じたい理想郷の存在を表現している。理想郷への導き手として彼の作品の主人公の表情に秘められた様々な思惑は、鑑賞者の内面に対して今一度、揺らぐ価値観の中での各々にとっての真実とは何かを問いかけている。
国内外の企画展やグループ展の参加や個展開催で画家として精力的な活動し、BEAMS、PORTERやPaul Smithなどのアパレルブランドへのデザイン提供やコラボレーションも多く行っている。NY Timesなど国内外のメデイアにも紹介されている。
http://www.koichirotakagi.com/
【青木昭信】
インストゥルメンタルバンド「Rega」のベーシストでありペインター。
自身のCDジャケットやグッズデザインをきっかけに本格的にペインター活動をスタート。数々の個展を開催し、近年では、作品を観る側が自由に値段をつけて購入できるアートマーケットや取り壊しアパートへのライブペイントなど活動の幅を多岐に広げている。
http://rega.jp
http://akinobu-aoki.com/