2018.05.14

Akinobu Aoki Art Market

Akinobu Aoki(画家、ミュージシャン)

「Name Your Own Price」でのアート・マーケット。来場者自身がその場で作品に値付けをして、Tip Boxにその金額を入れ、そのまま作品を持って帰るという形態のイベント。先月、そんなアート・マーケットを開催したのは、これまで数々の個展も開催し、昨年は自身初の抽象画で展示を成功させた絵描きであり、インストゥルメンタルバンドRegaのベーシストでもあるAkinobu Aoki。この一風変わった4日間のイベントの様子を振り返ってみた。

「Akinobu Aoki Art Market」
■日時:2018年4月12日(木)〜4月15日(日)
■場所:LUCKAND-Gallery Cafe&Bar-

メインビジュアル

2008年ごろから自身のバンドのアートワークを手がけることで、絵描きとしての活動も並行して始めたAkinobu Aoki。その時々によって手法も作風も大きくことなるAkinobu Aokiの作品は、過去に展示されてないものも含め、大小無数に存在する。そこで、『作品は旅立って人の目に触れることで、その作品に込められた創造性が生きるという考えの元、これまで創作された数多の作品を「Name Your Own Price」で、ご自由にお持ち帰りいただく』、という趣旨で、4日間限定のアート・マーケットを開催した。会場にある作品にその場で好きな金額をつけて、Tip Boxにその金額を入れ、持ち帰ることができるという。

会場を覗くと、そこはまるで作家のアトリエに遊びに来たような空間だった。ボードやキャンバス、壁紙に描かれた大きな作品から、画用紙、ノート、メモ帳やチラシの裏などに描かれた小さなものまで、多種多様な作品が数え切れないほど置かれていた。雑多に壁に貼られていたり、床に立てかけられていたり、ファイリングされていたり、棚に重ねて置かれていたりと、展示というよりはアトリエから自分好みの作品を探し出すような趣きを感じさせる。

海外に比べると日本ではアートに対する土壌が弱く、グッズは売れても絵画や写真など作品そのものが売れない。そういったことが度々言われる中で、今回のイベントはそういった状況に対して、自由に値段をつけていいし、持って帰った作品も飾るだけじゃなく自由な発想で使ってみてもらえれば、と来場者に委ねてみたものだ。実際Aoki本人も、

「元ネタとしてオーバーペイントしてくれもいいし。グッズを作ってくれてもいい。そんなものを見てみたい。勿論、飾ってくれてもいい。あなたが値段をつけて新たな価値をつけて下さいな」

と告知していた。そういった試みがどのように受け止められるのか、全く予想ができなかったイベント開催前だったが、蓋を開けてみると杞憂に過ぎず。まず通常の展示と違ったのは、来場者が作品を購入する目的で訪れ、全員が作品を買って帰ったこと。しかも、適当な値段をつけず、多くの人がいくらをつければいいのか、作品に込められた時間や想い、そして価値を真剣に考え、中には値段をスタッフに相談する人も多く、時間をかけて作品を購入していった。

既に値付けをされた作品では、その値段で買えるか買えないかで終わってしまう中、まず作品を持って帰ることを前提にできたこのイベント。その甲斐もあり、初めて絵を買います、という来場者も多く見受けられた。中には7歳の女の子が自分のお小遣いを握りしめて絵を買うという一幕も。

値段は本当に幾らでもいいし、会場スタッフも作家本人も一切金額は把握しない形式でTip Boxにお金を入れてもらった。だが恐らく、来場者全員が真摯に作品の価値に向き合ってくれた結果、本当に自分の支払えるギリギリのラインまでちゃんと値付けをしてくれたように見受けられた。そして、作家にとってはその値段以上に、そういった来場者の想いが伝わり、同時に、来場者にとってはそれぞれが買える値段でアートを自由に享受でき、皆でイベント自体にも素晴らしい価値を付けたアート・マーケットであった。

TEXT&PHOTO:LUCKAND

<Akinobu Aoki>
1981年、愛媛県生まれ。
インストゥルメンタルバンドRegaのベーシストである傍ら、絵描きとしての活動を続けるアーティスト。様々なテイストで描かれる作品は、映画、雑誌、身近な人との会話や散歩道の風景、そんな日常の構図をアウトラインに、二重三重とイメージを重ねて色彩豊かに描かれている。
『自らが好むアーティストに感じる違和感や異物感を、自分の作品でも表現したい。』
内側と外側の対峙で偶発的におこる衝動。音楽では仲間と、絵では孤独と向き合って創作活動を続けている。
http://akinobu-aoki.com/

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