2018.05.02
ストーリーが紡ぐアートワークと音楽の親和
小磯竜也(画家、アートディレクター)x 永原真夏(ミュージシャン)
NYLON JAPANにて木村カエラ連載のアートディレクション、Yogee New WavesのツアーTシャツ、永原真夏や大比良瑞希らのCDジャケットを手掛けるなど、様々な媒体でビジュアル制作を行う小磯竜也。今回、共に仕事をしたSEBASTIAN Xのボーカルであり、ピアノユニット音沙汰、更に2015年よりソロ活動を始動したアーティスト・永原真夏との対談により、出会いや互いの印象、そして共にモノづくりをする立場として、どのように永原のアートワーク制作を進めていったのかを伺ってみた。更に小磯が自身の絵画を使ってデザインしたポスター・CDジャケットなどの印刷物を原画と並べて展示する作品展「Printed by the Soul」についても語ってもらった。
「たかだか30年いかない程度で培った経験だけでやりくりはしたくないんです」(小磯)
ーデザインの道に進もうと思ったきっかけを教えてください。
小磯
具体的にグラフィックデザイナーになろうと考えたのは大学を出てからでした。高校生の頃に油絵を始めたんですが、美大は結構自由な場所なので油絵だけでなく色々な画材や道具を使って自分が何を表現したいか試してみました。思い返して見れば小さい頃から本のようなものを作っていて。絵を描くのも好きだけど、どういう紙を使い、どういう順番で、更に言えば手に取った時どれくらいの重さになるかがとても大切だったので、作ることへの意識は昔からあったんだと思います。それと格好良いと思うレコードジャケットのデザインも沢山あったので、そういうデザイナーへの憧れはありました。
ー大学卒業後、デザイン会社や広告代理店に就職せず、いきなりフリーのアートディレクターになられていますよね?
小磯
いきなり……でもないんです。一度フリーの何をしているかわからない人になって(笑)。当時は営業に加え色々と展示会をしました。なるべく人の目に触れるようにすることは仕事がない頃から常に意識していたんです。
ー小磯さんのデザインにはWORKSHOP MU!!の影響を強く感じますが、中山泰さんとお話することがあったとか。
小磯
何回か事務所におじゃまさせて頂きました。大学卒業後、とりあえず自分が憧れている人の話を訊いてみようと考えたんです。僕はどこにも所属していないので直属の先輩もいない。だからまずは外の先輩の話を訊かなきゃいけないだろうと思い、事務所の連絡先を検索して連絡しました。「中山さんを尊敬しているので、僕の作品を見て下さい」って。
永原
行動派ですね。
小磯
何かね、後悔するかと思って。会わないと。多分大学出たての子が訪ねてくることがあまりないと思うので中山さんも喜んでくださって、色々な資料や本を見せてくださいました。でもそこで負けていることを実感して落ち込みました。そんなの当たり前なんだけど、作品のクオリティだけでなく考えていることを含め、差があることに気付かされたんです。それに、自分は絵は描けるけどデザインのことは分かっていないというところでそこから独学で勉強するようになりました。
ーその他、影響を受けたデザイナーや好きなCDジャケットのデザインなど教えてください。
小磯
いくつか持ってきました。デザインした人のことを調べると、皆さんほとんどずっと、同じことをやっていないんですよ。中山さんはこういう絵(『niagara CM Special Vol.1』)を描いているけど、普段はコラージュだけでジャケットを制作するし、Otis Reddingのジャケットを手掛けたRonnie Stootsという人は、The Mar-Keysというバンドのヴォーカルでありながらセンスが良くて、こういうジャケットやStax Recordsのロゴを作ったり。『There Goes Rhymin’ Simon』のジャケットをデザインした Milton Glaserも普段はイラストを使ったポスターが多いんです。こういう、あまり自分の手法に囚われていない人が好きです。
小磯
ちなみにこのTHE BANDのジャケットはBob Dylanが描いているんですよ。それとこの高田渡のアルバムは河村要助さんと湯村輝彦さんが組んで作ったジャケットです。僕は逆にずっと同じことをやっている人は好きじゃないんです。二回続けて同じものを見せられると三回目は見たくなくなってしまう(笑)。だから僕も『GREAT HUNGRY』(2018年3月にリリースされた永原真夏の1stフルアルバム)では、その前に制作させて頂いた7インチレコード『あそんでいきよう/フォルテシモ』と全然違うアプローチをしました。僕自身、たかだか30年いかない程度で培った経験だけでやりくりはしたくないんです。自分の中にある知識や、覚えてきた技術だけに頼るとどうしても同じものになってしまうので、なるべくやってきたことのないことをしてみたいです。
ー小磯さんのアイデアの源はどこからくるのでしょう?
小磯
真夏さんとの場合はやはり音楽です。熱海のお土産屋さん「論LONESOME寒」であれば、店主の男の子が嬉しそうに語っていた夢の世界観を僕なりにイメージしたり、代官山にあった「HARCOZA」という洋服屋さんのポスターであれば、オーナーの女性が放つ「素晴らしい女性」のイメージだったり。
ー奥様(小磯彩乃さん)も刺繍や絵画などの作家ですが、お互い芸術的に刺激を受け合うことなどあるのでしょうか?
小磯
あります。たまに彼女が作る作品を見て「負けた」と思うこともあります(笑)。でも一緒に何かを創作する時も、彼女が作るものへ僕の要望を入れすぎないよう心がけています。僕が思った通りのものを作られても面白くないので。でも最近は一緒に展示をしていないのでやりたいですね。
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