2020.02.13

my blue vacation

斉藤壮馬

Creative Director : 加藤晴久(LUCK’A Inc.)
Art Direction & Design : 保坂拓(LUCK’A Inc.)
Photograph : 馬込将充

歌声のらしさは上手く活かしつつ、別活動や別側面としての自分を表したい。声優の発表する楽曲作品のアートワークは、その各位の違った面をクローズアップしフックアップ。新たなる魅力を提示させているものも多い。

この斉藤壮馬のニューミニアルバム『my blue vacation』のアートワークもそれに当てはまるだろう。無機質で生活感の無いあえて廃れた感を出した廃墟にて、生命力たっぷりに根強く生きていく野の草花の有機性を同居させた彼のジャケットはまさにその「明るさとそこに至るまでの陰」や「光の裏側に存在する影」をキチンと同居させた感がある。以下も含め手掛けたのは全てLUCK’A Inc.によるもの。特殊な黒いフレーム的な、開け箇所や仕様にもこだわったオーバーパッケージ。これだけでもどこか豪華感があるのだが、仕掛けや秘めたメッセージはそこを開けた先から始まる。その中に一枚用意された薄いブルーの透明な一枚の塩ビのフィルター。是非こちらを通してみたり、除けて見たりとジャケットを楽しんで欲しい。そのコントラストや仕掛けはどこかイメージやフィルターをかけたり、かけなかったりで自分を見たり聴いたりして欲しい。そんなことを言っているかのようにも映る。

初回仕様封入の分厚いオールカラーの写真集も、ブックレットも紙質、写真、デザインやシチュエーションも凝られた内容。印刷にはあえてマット系の紙を使い、場所やモチーフは近いものながら、どれも違って映るのは彼の各楽曲がその時の気持ちや場所、時間や季節によって違った響き方をする作品内容とどこかリンクする。まさにトータル的に作品内容と共に斉藤壮馬のミュージシャン的な側面が堪能できるパッケージだ。

これまでアニメ・ゲームを含め100作品以上に出演し、様々なキャラクターを演じ分けてきた実力派の若手男性声優・斉藤壮馬の1stミニアルバム。前作1stフルアルバムからちょうど1年ぶりの新作のリリースとなる。
彼のパーソナルや元々ロック好きな面が前面にあらわれた感のある今作。それは全曲自身にて作詞/作曲を手掛け、結果、更に自身のやりたいこと、進みたい方向性がより明示されたものへと結びついた。よりギターを中心に、ロックを主軸に置き制作された印象がある今作。前作でのその声優活動同様様々な音楽性を表現していた1stアルバムに対して、暗と明を使い分け、経たからこそ歌え、聴く者に信憑性を与える楽曲が立ち並んだのも印象的だ。

ギターロック然としたサウンドと祝福感溢れるコーラスも印象的な、今作のタイトルにも通じるような歌内容の「memento」から、この盤は走り出す。限られた時間だからこそ今を謳歌しようと生命力たっぷりにストリングスや勢いのあるサウンドがグイッと腕を引っ張ってくれるかのような曲だ。そして、こちらも勢いのあるギターロック。虚勢を張ってなんぼだろうと力強く歌う彼の男前な部分がこちらも疾走感のあるサウンドに載せて歌われた「張子の虎」こと「Paper Tiger」。また、エレクトロ性も取り入れた3拍子とアコギも印象的な「ワルツ」では彼のファルセットを交えた歌声と、キラキラとした音楽性が優しく聴き手を包んでくれる。打って変わってここからは大人な世界が広がっていく。「林檎」では、夜やダークな面やスリリングさが醸し出され、斉藤の大人な部分が歌詞のレトリックやアーバンなサウンドからも散見。アダルティな世界観を広げていけば、ラストの「Tonight」では、こちらも大人な雰囲気の中、ミディアムで柔らかく優しく、そして軽くこれからもあなたと一緒に歩んで行こうと歌われているように響いた。そしてあと1曲は…。おっと、こちらは購入者のみのお楽しみ。
どれも正直さや本質、内から現れ、湧きでてきたミュージシャン斉藤壮馬がより表れた1枚となっている。