2021.08.04
『自由に生きるのが一番いい』10年間で掴んだ自分の道
森俊博(イラストレーター/アートディレクター)
モーモールルギャバンやGOOD ON THE REELなどのアートワーク、FUDGEやヴィレッジバンガードなどのプレスイラスト、ショッピングモールのウィンドウや広告に至るまで、多彩な活動を展開する森俊博。
今号の発刊にあたりメインビジュアルポスターを描き下ろしてくれた森俊博は、このたび活動10周年を迎える。
スタイリッシュかつ有機的な世界観を構築している森俊博だが、これまでのスタンスでみえてきた自身のブランディングやポリシー、今号のメインビジュアルにかける想いとは。
今までの作品への姿勢から、現在の心境、未来の展望までを語った。
「本当にやりたいかどうか、楽しいかどうか、自分がないと消費されて終わってしまう」
―普段の創作は、どちらでされているんですか。
森
自宅が事務所も兼ねているので創作用の部屋もあるんですけど、コロナ禍に入ってからは土日だけアパホテルへ行っています。家だと生活音や気配が気になったり、あとは自粛の気分転換も兼ねて。最近はほとんどの作品がアパで生まれてますね。作品集のスペシャルサンクスに、元谷 芙美子さん(アパホテル社長)の名前を書きたいくらい(笑)。
―お住まいは、高円寺だそうですね。
森
大阪を出てから、ずっと高円寺です。気取ってないし、昼間から飲んでる人もいるし、作家も多いのでなんか住みやすくて。大阪っぽいというか、下町っぽいというか。
―どちらか美術系の学校に行かれたんですか。
森
大阪芸術大学です。元々は一般的な四大に進学する予定だったんですけど、友達が「芸大へ行く」って話していたのが羨ましくなって、3年の夏休みくらいから画塾に通い始めました。技術だけだったら合格できなかったかもしれないですけど、進学校で勉強は頑張っていたので、センター試験ですごくいい点が取れたんですよ。学力で入学したような感じです。
―それは素晴らしいですね。話はとびますが、卒業後はどうされたんですか。
森
3年間は、デザイン事務所に就職していました。徹夜したりもしましたし修行のような生活をしていたら体を壊してしまって。暫く休んでいましたがその時期にイラストの仕事も来るようになっていたので、独立することにしたんです。それから数年後に生活の拠点を、大阪から東京へ移しました。
―独立してから、1番最初にした仕事はなんだったんですか。
森
モーモールルギャバン(※1)が、ビクターからメジャーデビューするときのアルバムデザインです。もともとは中村佑介(※2)さんがジャケットを手掛けていたんですけど、メジャーデビューするにあたり声がかかりました。結果的にアルバムのデザインだけでなく、グッズやシングルのアートワーク、ライブの舞台装飾も担当しました。
―それこそ、中村佑介さんのようにバンドと一緒に駆け上がっていく道もあったように感じますが。
森
クライアントの世界観や売れ方で自分自身の見え方や作家性が決まってしまうことを僕は恐れていました。モーモールルギャバンのおかげで露出も増えてとても感謝しましたが、一方でただ依存するだけではなく自分の世界観もしっかり構築していかないとだめだと考えるようになり、自分発信で個展やグッズ制作を始めたんです。そのタイミングでヴィレッジヴァンガードのクリエイターズブームが来たというのもありました。
―クリエイターズブームと言いますと。
森
個人も含めてクリエイターのグッズをそれぞれの店舗でたくさん展開している時期があったんです。恐らく他の雑貨屋さんと差別化しようという狙いかと思います。
その立ち上げに僕のグッズも展開してもらっていました。当時はそのブームもあって本当にたくさん売れました(笑)。
―売れ行きが本当に良かったんですね。何か展開に変化はあったのですか。
森
これもメリットデメリットそれぞれですがデザインから製造、在庫管理まで全て個人で行いました。加えて本部の方と契約や店舗の交渉なども行なって、たくさんの作家がいる中で自分の立ち位置を明確にしないとと思っていました。
―その後は、ずっとヴィレッジヴァンガードでグッズ販売をされていたんですか。
森
やはりブームというのは長くは続かないと薄々感じていて、ある程度やった後で区切りを決めてスッと身を引きました
森俊博 アートワーク
―そこからは、どうされたんですか。
森
アパレルへの興味が増してきたので、曲がりなりにも個展で服を作ってみたり、「FUDGE」で絵を描かせてもらったりしていました。そういうことをやりながら、クライアントワークも受けるっていう。独立して、5,6年目くらいかな。
―「FUDGE」からお話があったんですか。
森
繋がりのあったFUDGE ONLINE担当の人に、「FUDGE」(※3)の編集長を紹介してもらいました。もともと「FUDGE」が好きで自ら志望したので、「FUDGE」だけはどんな条件でスケジュールがタイトでも受けるって決めて。ギャランティすら聞かずに引き受けていました(笑)。
―仕事を引き受けるかどうかは、何を基準に決めているんですか。
森
絵に関しては、本当にやりたいかどうか、楽しいかどうか。誰のための仕事なのかとか、あとは関わる人が好きかも関係してくるかな。デザインの要望に関しては、そこまでは考えてないです。ただ、仕事はめちゃくちゃ選ぶようにしています。いろんな人に「来た仕事は、なんでも受けなさい」って言われてきましたけど、僕はそういうやり方は出来なかったです。自分のペースで作り続けられないと精神的によくないし、ただ消費されて終わってしまうので。
<NEXT 2/2>「いろいろな経験をしたうえで、広がった選択肢から選んでいけるのが理想的」