2018.01.17

言語化できないもののアートワークとは?

wowaka(ヒトリエ・ミュージシャン) × 永戸鉄也(アートディレクター・アーティスト)

1stアルバム『WONDER and WONDER』からタッグを組んできたヒトリエのフロントマン、wowakaとアートディレクター・アーティストの永戸鉄也。最新作『ai/SOlate』のシンボリックなジャケット・デザインはもちろん、ヒトリエの歴代MV監督を結集し、フルサイズ以外にワンコーラスなど、様々な映像コンテンツをSNSで連続的に展開する企画立案も今回は永戸が行なっている。今回はミュージシャンとアートディレクターの関係性や、彼らならではのモノづくりのプロセス、そしてCDというミュージシャン、アートディレクター双方にとって、今後消滅の可能性もあるプロダクトへの危機感、その中での模索。ディスカッションの際に散歩をしながらアイデアがひらめくことが多いという二人に、あえて今回は<散歩>しながらのスタイルで話を訊いた。

「タイトルとかわからなくても記憶に残るジャケットがいい」(永戸)

―ところでCDのジャケットのアートワークなどの視覚情報は、作品において入り口である以外にはなんだと思いますか?

永戸

記憶じゃないですか?記憶には残るから。だからシンボリックにはしたい。曲名とかアルバムのタイトルがわからなくても、なんとなく「あの牛のジャケット」って言ったらピンクフロイドの『原子心母』をほとんどの人は思い出すわけだから、そういうようなものになればいいかなぁと思う。今回の『ai/SOlate』だと、「ピンクで人型で尖ってて」ぐらいがいいかなって。

ヒトリエ『ai/SOlate』ジャケット(Artwork by 永戸鉄也)

―『ai/SOlate』ってヒトリエのいろんな要素、収録曲の1曲1曲からまた広がるいろんなタネが入ってる印象があるんです。そして中でも「アンノウン・マザーグース」のセルフカバーはwowakaさんのボカロPから今のバンドでの表現に至るこれまでが、全部詰まったものでもあると感じました。

wowaka

もともと僕は一人で音楽を作ってたじゃないですか。じゃあなんでそういうところから離れて、自分で歌い始めて誰か他の人と一緒に音楽を作り始めたのか?バンドとして、この5年間何をやってきたのか?を全部踏まえた上で、俺は何が言えるのか?と考えたんですね。そういう意味ではこの1曲で全部言ってやろうと思ったのは事実なんですよね。自己中心的な曲でもあるし、でも「こういうことだったんだよ」といった説明をしたかった曲でもあるし。その上でこれから俺がどうしていくのかって意思表明の曲でもあるし。

―永戸さんはwowakaさんのここまでの変化をどう見てらっしゃいますか?

永戸

色々トライをしてるように見えるし、コミュニケーションが前より取れてるし、もちろん技巧的にもレベルが上がってきてるだろうし、余裕は出てきてるなって感じはするけど(笑)、そんなことはない?

wowaka

うーん、余裕はないですけどね(笑)。余裕がない中でもこのバンドをやってきて、自分の何が一番変わったのかな?って考えた時、「みんな所詮人間なんだよな」と思えるようになったということで。去年(2016年)アルバム『IKI』を作るちょっと前に、それに気づいたんです。それ以前、人というものに対してバリアを張って怖がってる自分もいたけど、このバンドを始めて、メンバーや永戸さんみたいな人たちとのやり取りを経て、とりあえず周りの人は<得体の知れない何か>では無くなった瞬間はありました。

―人との関わりに肯定的になれてきた時に、元々の自分の動機っていうのが、よくわかんなくなっちゃったりとかしないですか?

wowaka

でもやっぱり、俺、自分が世界に邪魔されてる感覚は、多分一生忘れないだろうなと思う。その一番、真ん中の部分に対しては、もうこういう人間として生きてきた以上、忘れる忘れないって次元でもなくなってきてはいるんで。

―逆に永戸さん的には、アーティストと仕事していると、こういった方は多いという印象ですか?

永戸

みんな歪んでますよ。絶対的に(笑)。歪んでるものを見せてる職業じゃない?

―確かにそうかもしれないです。先ほどのお話の続きなんですが、今回のジャケットは「仕掛けたい」という気持ちが強かった理由は?

永戸

ここで一発ちょっと強いのを打って、決戦の狼煙を上げたい思いがあったんですよ。言葉があってるかわかんないけど、ずっとこのステージで挑戦できるかもわかんないっていうのもある。だからジャケットのアートワークは<旗>で、決戦に挑んでいくようなイメージ。それほど切羽詰まってるというか、それぐらい思って進むタイミングなんじゃないかなとはwowakaと話していて。それでこんな案になったところもあります。

―wowakaさんは、最初にこれを見た時に受け取った印象ってどういうものだったか覚えてますか?

wowaka

「強っ!」て印象でしたね。だいたいいつもラフの状態から変わんないんですけど、見せてもらう時に思うのは、完全に<俺>なんですけど、俺からは出てこねえなっていうところをいつも突いてくるんですよ(笑)。そういう意味でのちょっとした違和感、想像が追っつかないなっていう部分がありながら、でもそこに対して一回真摯に向き合うと、「あ、間違いなく俺だな」って感じられる。そんな部分も、アートワークにおける大事なバランスなんじゃないかなと。

―お互いのクリエイティブに今後求めるものってありますか?

永戸

求めてないかも(笑)。特にこういう音楽のパッケージって刹那みたいなのを自分がギュと持ってこれないとダメだから。

wowaka

音楽に対するアートワークのあり方として、俺、永戸鉄也以上のものを知らないんですよ、そもそも。いろんなものを見たし、感じてきたけど、もうこれがベストだと思ってる(笑)。

永戸

自分も、このやり方がベストだと思ってやってるから。音楽の仕事は勝手にやって勝手にぶつかった時が一番いいっていうのはあるので。

―すごく才能がある人でも何を怠ると止まっちゃうんでしょうね。

永戸

作んなくなったら終わるってことなんじゃないの?でも貪欲だったら多分誰が何を言おうが、やるじゃないですか(笑)?だけど、やり続けてても、「もうできない」ってなるかもしれない。だからこそ、その瞬間に生き続けるっていうのは大事なんじゃないかと思う。

wowaka

まさに。

永戸

(笑)。人と比較せずに瞬間を生き続ければ何者かに、なんかの形にはなりうるっていうことはひとつあるかもしれないよね。

―ところで、永戸さんはこれまでアートディレクションはもちろん、全てを自分で手がけられていたのが、最近は分業というか、いろんな方を巻き込んで作り上げていくスタイルに移行されてきて。今回のヒトリエのアートワークやMV全体にもそういったところが見受けられたのですが。

永戸

それはヒトリエにとって今回は「決戦だ」っていう意識が僕の中であったから。使えるものを全部使ってでも、伝達するためにはどうしたらいいのか?とか、業界全体で予算が少なくなってきてる中でどうやってツールを増やすか?を考えた結果、総力戦というか、ああいう巻き込み方になったんです。過去に関わってくれた方々に電話して、「ヒトリエはここからもう一段階仕掛けるから協力してくだい!」って、みんなに頼んで。

―あのMVプロジェクト(歴代クリエーターが参加した映像プロジェクト)はそういう理由だったんですね。

永戸

危機感が大きいです。いい音楽を作ってるから売れるとは限らないし。

―じゃあ割と警鐘的な部分も含めて?

永戸

タダで音楽聴ける世の中になって、まだ僕もCDのデザインしてますけど、将来的にはフィジカル(パッケージ)のCDってなくなるかもしれない、その時にミュージシャンやメーカーはどうやって食っていくか?シビアに考えなきゃいけない。「まだこれやってるのか?」とミュージシャンにも思う時もあるし、自分にも思ってる。でも、今より下に行ってはダメで、上がってかなきゃいけないわけだから。その時にちょっとでも杭を打ち続けないと上には上がれない。生き残っていけないっていうことですよね。伝達の方法も時代によって変わってくるから。

 
 

wowaka 愛用品

ヘッドフォン Master & Dynamic MH40

デザインが無骨で、且つ音もいいので使ってます。かなりオールラウンダーなヘッドフォンで。音楽をやってるとモ二タリング用のシビアな環境で音を聴いたりすることも多いんですが、これはどっちかというとリスニング用のヘッドフォンに近くて、その中でも嫌な味付けもなく気持ちいい音を鳴らしてくれるんですよね。解像度も高いけど高すぎなくて。味わいのある音で出してくれるヘッドフォンですね。そのバランスがちょうどいいのと、見た目の良さで使ってます。

永戸鉄也 愛用品

iPhone

いっつも使ってます。写真を撮ったり、それをインスタにアップしたり。情報収集も結構これでやってますね。あと、これで電子書籍を読みます。老眼で紙だとちょっと辛くなってきて。ほら、拡大も出来るじゃないですか。

サピエンス全史

そんな中でも、今、これが面白くて。「サピエンス全史」って本。これヤバイすよ。もうね、一番最初からの話。で、そいつの新書がまだ日本語になってないんだけど、これからの話を書いているという(笑)。

INTERVIEW&TEXT:石角友香、LUCKAND
PHOTO:伊藤惇

<wowaka プロフィール>
バンド、ヒトリエのボーカル&ギターでありソングライターかつバンドの頭脳。大学時代から作曲を始め、2009年ごろから初音ミクを使った音楽作品制作を開始。2011年にはネットを主戦場とするレーベルから「アンハッピーリフレイン」など、作品をリリース。同年、ヒトリエも始動。インディーズでの活動を経て2014年1月にシングル「センスレス・ワンダー」でメジャー・デビュー。同年11月に1stアルバム『WONDER and WONDER』をリリース。これまでに2作のミニ・アルバム、3作のフル・アルバムをリリース、最新作は2017年12月の3rdミニ・アルバム『ai/SOlate』。ツアー『ヒトリエUNKOWN TOUR 2018“Loveless”』を京都公演を皮切りに敢行中。
http://www.hitorie.jp/

<永戸鉄也 プロフィール>
アートディレクター、アーティスト。高校卒業後に渡米し、帰国後の1996年よりCDジャケットのデザイン、ミュージックビデオのディレクション、広告やドキュメンタリー映像細作などに携わる。RADWIMPS、THE BACK HORN、Salyu、ヒトリエなどのCDジャケットやミュージック・ビデオ、また、UNDERCOVERのイメージ・ビジュアルなども手掛ける。
http://www.nagato.org/

<LUCKAND x 永戸鉄也 共創プロダクト>
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