2020.03.26
アナログ盤化が生むアナザーストーリー
フジファブリック「アナログレコード盤」マスタリング/カッティング」現場レポート
待望のアナログ盤化されたフジファブリックの2枚のアルバム『アラカルト』『アラモード』の制作過程を基に、主に音の再生の際、最重要となる2つの作業、「マスタリング」と「カッティング」、とりわけ「カッティング」を中心にレポート。それぞれに潜入。その製造過程を紹介するとともに、それぞれが生まれ出る現場に潜入。その工程やポイントを紹介すると共に、カッティングマスターにも様々な話を訊いた。
昨今この日本でも何度目かのアナログレコードブームが再燃中だ。アメリカレコード協会の発表によると「近い将来、アナログがCDセールスを超える可能性がある」とのことで、日本でもアナログの生産や販売数が再び上昇中だと聞く。
それを表すようにアナログ専門店の新規オープンやコーナーの設置、スピーカー付きや安価なタイプのレコード・プレーヤーなどの発売も手伝い、マニアのみならず幅広い人たちまでもが入手しているとの明るいニュースも耳にする。
その人気の要因の一つがやはり、アナログ盤独特の音のふくよかさ。リスニングのひと手間も愛おしく、その盤から出る上部と下部までレンジ幅広く再生されるそのメカニズムは、現在の配信やストリーミングのデジタル音源ではカットされていた、豊潤な部分を担う音域までもしっかりと再生してくれる。
コンニチハ、ケイシです。今回は待望のアナログ盤化されたフジファブリックの2枚のアルバム『アラカルト』『アラモード』の制作過程を基に、主に音の再生の際、最重要となる2つの作業、「マスタリング」と「カッティング」、とりわけ「カッティング」を中心にレポートします。私も実際のそれぞれの作業現場に入るのは初めて。ワクワクしています!
フジファブリックアナログレコード盤『アラカルト』『アラモード』
アナログ盤化マスタリングスタジオレポート
まず、アナログ盤化で必要なのが音源です。
そこで必要となるのが、CD用に録音していた音源を、アナログ盤で再生した際に、より元の音に近づける、そのフォーマットに合わせた音質の調整が必要となってきます。
その作業をマスタリングと言います。
これがマスタリングスタジオ内部です。写っている機材はその一部。これらを駆使し、頭の中にある音像をより具現化していきます。
マスタリングとは、一般的には録音した音を、そのバランスや質感、曲間の長さなどに加え、曲と曲との音量の差や音質を合わせ、整えていく作業。音に立体感や奥行き、更なる臨場感等を増させることも可能です!
当時はデジタルで録音されていたので、そのデジタルデータを今一度、アナログ用の音源にいわゆる「マスタリング化」しなくてはなりません。
まずは当時のミックス済みのデータを、当時レコーディングエンジニアを務めた杉田オサム氏が、当時と同じオーブライトマスタリングスタジオの橋本陽英氏の下に持参。杉田氏立ち合いの下、橋本氏の手によりマスタリングが進められていきました。
当初はアナログ用に何かミックスやマスタリングを変える可能性も考えていた両氏ですが、当日のその元音源の音を聴き、逆に何も手を加えない方が、そのままの音を最良に再現できることを確信。あえてほぼ何もいじらず、そのままマスタリングデータを作成していきました。
そのマスタリングデータの入っているものがこちらです。このケースの中にDVDにてマスタリング後のデータが収まっています。
続いてはカッティング作業の現場に潜入します!
アナログ盤カッティング作業レポート
続いて、これをプレス~製品化していく作業に移ります。
これは東洋化成という、そのマスタリング済のデータを製品化するまで一括管理で行う会社にて行われ、それらは鶴見の末広町にある「東洋化成末広工場」にて行われました。
現在日本ではプレス現場は、メッキ加工による薬品の取り扱い許可も関係し、この東洋化成と他にもう1社しかないとのこと!
流れ的には、まずは先程のデータを盤の大元になる「マスターラッカ―」(凸)というものを直に作り、それを基にメッキをかけ、「マスター」(レコード盤を凹凸を反転させた凹型)「マザー」(マスターから型を取った凸型)を作成し、それを基に「スタンパー」と呼ばれる金型的な盤を作成、その金型から次々とプレスできるように「マザー」と呼ばれる大量生産用のその基になる盤を作っていきます。上の写真は、そのそれぞれの実物です!
今回はその「マスターラッカ―」を作る作業を見学、実際に「アラカルト」「アラモード」が盤に掘られていく様を体験させていただきました。
日本国内でカッティングが出来る場所は4社、また個人で行っている方がお一方おられるそうです。
今回の「アラカルト」「アラモード」のアナログカッティングをご担当されたのが、東洋化成のカッティングエンジニア手塚氏。この道40年以上のベテランで、一部では「アナログカッティングのマエストロ」とも呼ばれている方です。
エンジリアリングの作業が肝と言われるぐらい大切且つ重要な作業になります。
まずはアナログに落とすべき音に作成したものを不備がないか?大きな音で再生し、みんなで確認していきます。
ここでの最大のポイントは「音決め」であり、それが最も大変な作業とのことでした。
波長と音を見比べています。
プログラムタイムと音量によってどのぐらいの溝の深さにするか?を決定していきます。
まずはまったく溝のないラッカー盤を取り出し、機械に乗せ、実際の音を流しながら、慎重に溝を掘っていきます。
そのセッティングの際に溝の深さを設定。顕微鏡で溝の深さを測ります。その深さで削るように針を設定します。溝の深さの設定が音の命とも言われています。
今回のアナログ盤は、俗にいう「33 1/3回転盤」。1分間に33と1/3の回の回転をさせるものです。他にも、45回転、こちらは1分間に45回転等があります。
そのラッカー盤に実際のレコードと同じように回転させ溝を掘っていきます。
音により溝の深さも変わっていくとのことです。
これでスピードを変えていきます。外側と内側では円周の長さが違う為、これで調節しながら、きっちりと盤の中に溝が収まるようにコントロールしていきます。円周は一番外側は1M近く、ラベル付近は、その1/3ぐらいの長さになるそうです。
これがマスターラッカーです。
その後、プレスされ、ラベルが貼られ、ジャケットに封入され、出荷させるわけです。カッティングから出荷までスムーズにいって約2週間ほどの時間要するとのこと。