2019.09.22

後世に残すべき国産の靴下

RADWIMPS「Socks(靴下)」工場レポート

RADWIMPS『ANTI ANTI GENERATION TOUR 2019』ツアーグッズの中にある靴下。これは専門の工場で、職人さんたちの手により丹念に一つ一つが創り出されていく。今回はいくつもの工程がバトンのように繋がって創り出されている奈良県の靴下製造工場に潜入。その製造過程を紹介するとともに、それぞれの産業事情や製造工場の裏側について社長の声を聞いた。

【靴下工場代表・T社長・インタビュー】

「ひとつとして同じモノが出来ないことが、この仕事の魅力」

━まずはこの製造工場の歴史から教えて下さい。この工場が建てられたのはいつ頃ですか?

T社長

昭和35年です。当初からこの奈良県で設立され、今まで営んできました。

━T社長がこの靴下製造業を始めたキッカケを教えて下さい。

T社長

元々私の稼業が代々の靴下製造業だったんです。先代から私が引継ぎ、今年で約30年近く経ちます。私自身、ここで生まれここで育ちました。他に行きたいところもあったのですが、業界の景気もよかったので、そのまま靴下製造業を継いでいくことにしました。

━ここまでを振り返り、どの辺りに苦労がありましたか?

T社長

やはり海外への製造の流出でしょうか。国からの要請だったと思いますが、国内で仕事の依頼があった時でも、日本での新規設備投資の融資は殆ど断られ、海外製造に融資が出た時代が平成10年頃にありました。その結果、今ではこの靴下製造の9割以上が海外での製造になってしまっています。

━そこに対して何か信条としたことはありましたか?

T社長

「新しい何かをやっていかないと!」という気持ちで取り組んできました。靴下と一言でいいますが、製品の種類はベビーから紳士にわたり数多く存在します。なので全てを当社だけでは出来ません。個性を何処まで出せるかが他社と違いを見せるために重要になります。それこそ1歩進まないと3歩下がってしまう危機感がありましたから。常に1歩ずつ進む気持ちで何かやらねばと自身に戒めています。あとは常に修行し、技術の向上を目指し、時代のニーズに合わせて進化すること。その辺りを目指しています。

━ここからは靴下製造の流れに移ります。まずはその製造工程をざっと教えて下さい。

T社長

まずは完成形を描くところから始まります。元データは線で描かれたものから始まります。それをドットで表現し直して編み立てデータに処理をします。マシンと連動して行うのですが、処理には熟練の経験が必要ですね。今回の商品は、左・右1台づつ編み立てするのでは無く、品質安定のため各機械で左・右交互に編み立てを行いました。検品は専用の板にはめ、濃色ボディには淡色の板、淡色ボディには濃色の板をはめて確認します。これらも全て人の手で行います。靴下の編み立ては、基本的に自社で行います。これにはこだわっています。ただ、縫製、仕上げ、刺繍等は分業制で、自分の工場だけでできることではなく、周囲の他の工場の協力があって初めて完成します。

━基本、編み以降は手作業なんですね。

T社長

そうです。編み立ては表向きで落ちてくるので、縫製する時は裏から縫うので人の手で裏返します。それらは全て人の手で行われます。

━その際、何か気をつけている点はありますか?

T社長

次の作業がしやすいようにするのが鉄則ですね。その為、10足20枚をくくったりして次の工程に送ったりします。

━技術的に大変なことは何でしょう?

T社長

「ゴアライン(かかとの斜め縫い)」ですね。繊維業界では、「靴下の斜め縫いは最も難しい」と言われています。特に今回のRADWIMPSさんのパイル編みは、厚手で糸の本数も多く、糸引け等も出やすくB品が出る可能性が高くなります。まめな検品が必要になります。あと、技術ではないですが、パイル商品は機械の回転が遅く納期を合わせるのが大変でした。当社は自社生産にこだわっているため、作れる量しか受注は受けていないです。

━良い靴下と、そうじゃない靴下を見分ける方法ってあるのでしょうか?

T社長

よく「3足1000円」など安く売られているのを見かけると思います。薄手中心の商品が多く、大半は悪い商品ではないですが、主に海外生産・大量生産のなせる技です。本来はそんな金額ではけっして売れるものではないんです。したがって新規の設備投資・開発・人材育成等前向きなことは出来にくくなり安い商品を編まざるを得ず、負の流れになります。
良い靴下を見分けるポイントは幾つかありますが、良質な糸・ゴアラインのバランス・柄糸の処理等を確認することです。それらは良い履き心地になるように努力してつくられている証です。

━T社長にとってのこの仕事の魅力は何でしょう?

T社長

ひとつとして同じモノが出来ないことでしょうか。一見、同じように見えても全く同じものではない奥の深さ。そこが手で作り上げていく面白さや個性であると私は思っています。靴下製造は根気のいる作業になります。何回もの打ち合わせを経て苦労して作り上げた商品ですから。お客様に喜んで頂けた時は嬉しいですね。ビジネスだけではないですね。

━T社長がこの会社で大切にしているものは何でしょう?

T社長

製造機械を愛することです。私自身マシンの手入れが趣味だったりもしますので(笑)。そして、無理難題を言う私についてきてくれる従業員はじめ協力してくださる皆様です。

━この工場の他にはないであろう強みを教えて下さい。

T社長

データの制作からマシンの選定を一環して行えることかな。新旧交え、ここにしかない機械も多く。それらを用いての創作方法が持ち味です。

━何か今後に期待していることはありますか?

T社長

日本製に魅力を感じていただき、モノ創りに興味を持っていただける方との出会いです。それこそ今回RADIWIMPSさんのお話をいただいたような出会いを大切にしたいです。

━最後に、この職種につきたい等の未来の職人予備軍(若者たち)に伝えたいことはありますか?

T社長

やる気と根気、そして諦めず挑戦を楽しむことです。私自身それを信じて、ここまでやってこれた自負がありますから。どのモノ創りにもハードルはありますが継続は力になりますよ。あと、これは若者たちというより全ての人たちに対してお伝えしたいのですが、近年靴下業界の衰退が進み危機的状況になってきています。ここ10年で何とかしないと、モノ創りが出来なくなる可能性があります。この技術を後世に残せるように当社含め、業界全体で盛り上げていく所存です。

T社長 愛用品

業界用のピンセット、鉛筆

工場は狭いので工具を体にぶら下げていると人を傷つけたりと危険で、必要最低限の工具をポケットに入れています。このピンセットは、先が曲がっている方が糸を通しやすく靴下業界の多くの方が利用されています。工場の仕事の大半は、柄替え等、糸を通す作業なのでこのピンセットを使っての作業が多くなり、携帯しています。鉛筆もあえて短いのを使い、危険の無いようにしています。


INTERVIEW&REPORT:ケイシ
PHOTO:Kana Tarumi

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