2019.12.03

“楽しい”という初期衝動 それがモノ創りの絶対的原動力

HIDDY(SECRET BASE ディレクター)

アンダーグラウンドからハイエンドまで、独自の視点で選び抜かれた様々なアーティストやブランドとのコラボ作品を共同制作し、世界中で高い評価を集めるトイブランド「SECRET BASE(シークレットベース)」。狂乱の裏原宿ムーブメントの真っ只中、サッカー漬けの青春を送った体育会系青年がわずか23歳でショップオーナーへ転身。中国生産が主流の今、あえてオープン当時から現在に至るまで、MADE IN JAPANにこだわって生み出されるプロダクトと、それを生み出す生産背景が抱える問題。そして見出す新たな活路。ディレクターのHIDDY氏がいま考える”モノ創りの姿勢”とは。原宿から世界へ、小さな秘密基地が発信するジャパンカルチャーの最前線に迫る。

「労働した時間や労力と、対価としての収入が比例すると考えてはダメ」

—このシリーズがブランドの看板プロダクトとして、ここまでヒットした要因はなんだったと思いますか?

HIDDY

当時、透明のソフトビニールによる成型技術が中国の工場には存在せず、それを可能とした日本独自の技術が海外で高く評価されたというのはありますね。で、第2弾として取り掛かったのがスポンジ・ボブ。最初は使用許可が出なかったんですが、たまたまスポンジ・ボブの映画編集チームが来日していて、そこの担当者がウチのフィギュアを気に入ったと話を通してくれて無事商品化。この実績が出来たことで、フィリックス・ザ・キャットなど他のキャラクターの話も続々と実現することに。そう考えると今のウチがあるのは、周りの先輩や仲間たちと日本独自の製造背景があったからこそと言えるかもしれません。

—日本独自の製造背景ということですが、ソフビフィギュアってどう作られているんですか?

HIDDY

金型を作る、ビニールの型を抜く、色を塗る、組み上げる、みたいな感じで工程ごとに分業制になっているんですが、実際にウチの製造工場を見たら「えっ、ホンマにここで作ってんの!?」って、きっとビックリしますよ(笑)。

—中には1体何十万円もするソフビも売られていたりと、シーン全体が盛り上がっているように感じられますが。

HIDDY

そういった価格設定をしているのって個人のソフビ作家で、昼間は会社員をしていたり趣味の延長のような人たちが多いんですよ。工場で成型までやったら未塗装で買い上げる。で、それに自分らで塗装して販売するっていうやり方を。同じ業界の人間としてはどうかと思いますが「ハンドペイントの1点モノなので50万円!」とか謳うと、それをまたアジアを中心とした海外の富裕層が釣られて買っちゃうんですよね。それでオリジナルソフビの需要が増えることで、工場も常にパンパン状態で稼働→でも塗装などの手間賃が入らないので工場は儲からない→新規参入者に対して閉鎖的になる→工賃も上がって、商品価格も上げざるを得なくなる。そんな負のスパイラルが生まれてしまっているという現実があります。

—一気に盛り上がったことで、すでにシーン衰退の危険性をはらんだ歪みも出てきていると。

HIDDY

実際、最近の作家さんに会ってみるとソフビが好きというわけでもなく、ただ儲かるから作っているという連中も多いように感じます。僕らがやり始めた頃は原型の上手さがあったからこそ成立していたのでちゃんとした技術を持った原型師に頼んでいましたが、今は造形の基礎も出来ていない人間が作った原型が逆にアリな空気感。色んな意味でインスタントになったんやなって。

—スマホひとつで済む便利な時代にはなりましたが、だからこその問題点もありそうですね。

HIDDY

それで言えば、人材の確保ですかね。whizの下野くんとも話しているんですが、ファンとして応援してくれているお客さんって、作っている本人から直接買いたいんですよね。その想いになるべく応えるためにも、売り手側が自分らの商品についての知識を持ってちゃんとリコメンドすることができないと、買い手側を満足させられないじゃないですか。それが出来るプロフェッショナルを育てるというのが今一番の課題。究極的な理想としては、自販機のように純粋にモノを見て「面白い!」と思って買ってもらえるような販売システムを作ることですが、まずは畳1枚分のスペースでのビジネスからかなぁって。

—それはどういうことでしょうか。

HIDDY

例えば、地方都市にある喫茶店やカフェの棚をレンタルさせてもらい、そこでウチのオモチャを置いてもらうんです。で、売れるたびに納品して委託販売するっていう。場所が変わればお客さんも変わるので新たな客層の開拓にも繋がるし、もしヨゴロウでウチのオモチャが売られていても、その商品の特徴を店主の西くんに聞く人はまずいないでしょ(笑)? 知識を備えたプロフェッショナルの育成が困難であれば、そういうやり方もあるんじゃないかなって。

原宿のカレー店「ヨゴロウ」店主・西氏(左)

—なるほど。常に時代の先を見据えているんですね。HIDDYさんがクリエイターとしての自分のスタイルを一言で表すとしたら?

HIDDY

僕は自分のことを“忍者”だと思っているんです。下野くんやHIKARUさんがお城を持っている殿様だとしたら、僕は城を持っていないけど、ものスッゴイ刺さるマキビシを武器に色んな殿様からの依頼を受けて、それを完璧にこなす。みたいな(笑)。

—たしかに言い得て妙。ちなみにモノ創りにおいて、若い世代は“バズった=話題になった”瞬間に達成感を覚えるようですが、HIDDYさんはどうですか?

HIDDY

僕の場合、バズって話題になった頃にはもう興味が移っているというか、トーンダウンしちゃっているんですよね。「何かをやりたい!」と思って動き出して、壁にブツかった瞬間にテンションが上がって、そこから「じゃあ実際にどうやって企画を実現させるか?」って悩み抜いて、その結果プレゼンに成功した瞬間。ここがピークですね! あとは僕が作ったオモチャが、全然違うジャンルの人たちに刺さった瞬間かな。

—最後にクリエイターを目指す読者へのメッセージをお願いします。

HIDDY

ひとつアドバイスするなら、労働した時間や労力と、対価としての収入が比例すると考えてはアカンかなぁ。あくまで、自分が楽しいと思うことをやって、その結果としてお金になったらイイなぁくらいの姿勢でいるべき。モノも情報も簡単に手に入る今の時代にあって“自由に見えるけど自由はない”と覚悟の上で“モノ創りが楽しいから”と思えるなら、一度チャレンジしてみてもイイんじゃないですかね。

HIDDY愛用品

サングラス
こんなキャラクターの割に意外と優しい目をしているので、ギャップ萌えさせたらアカンかなってことで(笑)、普段から必ず持ち歩いているのがサングラス。先輩のブランドRALEIGHを愛用していて、コレはサンプルモデル。たとえ知り合いに遭遇しても気付かないフリが出来て便利! なので手放せすことが出来ません(笑)。

INTERVIEW&TEXT:TOMMY
PHOTO:LUCKAND編集部

HIDDY

オリジナルTOYを中心に、アンダーグラウンドからハイエンドまで独自の視点で選び抜いたアーティストや物、ブランドとオモチャを共同製作するトイブランド「SECRET BASE(シークレットベース)」のオーナー。現在は“ソフトビニールでどこまで遊べるか”をコンセプトに、NEXT LEVELに挑戦中。関西人らしいノリの良さとい幅広い交友関係、そして時代の先を見据えるクリエーション力では、トイ業界のみならず幅広いメディアから注目されている。
SECRET BASE公式サイト

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