2018.07.26
価値観は二人の手で作り出してもらいたい
増井元紀(JAM HOME MADEディレクター)
”ジャムセッション”。ジャズミュージックにおいて、プレーヤー同士が集まって行われる即興的演奏を指すこの言葉を、その名に冠したアクセサリーブランド『JAM HOME MADE(ジャムホームメイド)』と、そのディレクターを務める増井元紀。今年で創立20周年を迎え、スタートの地である千駄ヶ谷に再び旗艦店をオープンさせて挑む原点回帰。そして、今や同ブランドを象徴するアイテムとなった「名もなき指輪」に込められたモノと人への想い。すべてが希薄になったといわれるこの時代で、今までにない価値観の創造にチャレンジし続ける男のモノづくりとは。
「時代と共に変化していっている部分はあるように感じています。その最たるものが価値観」
—それぞれの個性といえば、購入者が相手の指のサイズに合わせて、真鍮製の指輪を叩いて真円に整えていく「名もなき指輪」(2011年発表)と、同様にプラチナ製の指輪「名もなき指輪-WEDDING-」(2016年発表)ほど、持ち主の個性が反映されるプロダクトは他にありません。誕生のキッカケを教えていただけますか。
増井
最初の発想自体はとてもシンプルで、指輪に対して「どうしたらもっと、手にする人にとって価値のあるモノになるのか?」と考えた際に「僕が作るよりも、愛する相手が想いを込めて作ってくれた方が嬉しいんじゃないか」という思いから辿り着いたのが、お互いの手で指輪を作るというこのカタチでした。
—指輪の価値を、自分らの手で作るという行為に込めるのと同時に、お客さんには指輪がどう作られているのか、そしてそれが自分らの手でも作れるということを知ってもらえるというワケですね。
増井
そうですね。「名もなき指輪」の場合、結婚する際には自分の手でコツコツ整えた指輪を原型として、プラチナリングに生まれ変わらせることも出来ます。工程自体はもちろんですし、付き合っている期間に出来た小さなキズの一つ一つも思い出として刻まれていく。この指輪を手に取った皆さんは、そこに自分の価値を見出してほしいと考えています。
「名もなき指輪」の自販機が設置されており、24時間購入可能。
—千駄ヶ谷に移転した旗艦店を覗けば一目瞭然なのですが、人生における最大級の共創の証ともいえる“結婚”そしてブライダルリングを、メインに打ち出しているのは、増井さん自身の出発点だからでしょうか。
増井
最初の旗艦店も千駄ヶ谷だったんですが、当時も真っ白な内装でブライダルをメインに考えていたので、確かに原点回帰といえるでしょう。とはいえ、この20年間で僕自身変化はありませんが、時代と共に変化していっている部分はあるように感じています。その最たるものが価値観。若い世代は100円均一ショップが生まれた時から身近にあり、それで育ってきているので“一生モノ”なんて考え方が今は通用しません。そんな中で、“どうすれば価値観を共有できるか”を常に意識することが重要だと思っています。
—この「名もなき指輪」も今では、1万組を遥かに超えるカップルの手に渡っていると伺いました。これから10年、20年と刻を重ねていけば、さらにその子供達が「名もなき指輪」で結婚する日が来るなんてのも有り得ますよね。
増井
ブランドの設立時に若いお客さんと一緒に育っていきたいと願っていたのですが、あれから20年が経ち、当時のプロダクトを手に取ってくれていた世代が、ちょうど結婚適齢期を迎えていることもあって、もしそれが実現したらと考えるだけでワクワクしますね。そのためには新たなお客さんの支持を集めつつも、これまでブランドを愛してくれた顧客の皆さんのアフターケアも続けていけるよう努めていきたいと思っています。
—最後にクリエイターを目指す読者へのメッセージをお願いします。
増井
では、先程も話に出たアニメ『交響詩篇エウレカセブン』の劇中に登場するアドロック・サーストン(主人公の父親にして物語のキーパーソン)の言葉、“ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん”を送りたいと思います。現役でシーンのトップを走り続けている先輩たちも、今があるのは自らの手でチャンスを勝ち取ってきたからこそだと思いますし、自分の手で新たな価値観を作り出していかなくてはならない、この時代にクリエイターを目指す皆さんにこそ、この言葉は相応しいのではないでしょうか。
*「名もなき指輪」は株式会社JAM HOME MADEの登録商標です。
INTERVIEW&TEXT:TOMMY
PHOTO:伊藤惇
増井元紀
1994年に桑沢デザイン研究所を卒業し、日本におけるジュエリーデザインのパイオニアであるNOBUKO ISHIKAWAでジュエリー制作の基礎を学ぶ。その後、1998年に現・代表の高橋氏と共にブランド「JAM HOME MADE(ジャムホームメイド)」を創立。今年で創立20周年を迎え、ますます注目を集めている。
JAM HOME MADE公式サイト:http://jamhomemade.com
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