2017.10.03

美しさを貫く為に必要なセルフプロデュース

小林祐介(THE NOVEMBERS)・ケンゴマツモト(THE NOVEMBERS)

独自性やアイデンティティを保ちながら活動を継続していくことは容易なことではない。しかし中には、それを保持し、拡大し続けているアーティストもいる。ロックバンドTHE NOVEMBERSもその一つだ。
今年結成12年、デビュー10周年を迎えた彼ら。2013年の独立後は、自身のマネジメントオフィス/レーベル/ブランド「MERZ」を立ち上げ、以後は、そこから世間をあっと言わせる様々な発信や、ファンならずとも気になるアイテムの供給を行っている。
しかし、ここまでの彼らの道のりは決して順風満帆ではなかった…。
これからアーティストが独自でやっていく指針や好例の一つにも映る、現在のMERZの行動。何を指針にし、信じ、彼らはここまで来れたのか? その意味と意義、苦労や歓びを、この10年間の振り返りも含め、ボーカル&ギターの小林祐介、ギターのケンゴマツモトの2人に語ってもらった。

「ごまかしや舐めたことは絶対に見抜かれる」(ケンゴ)

━生まれた利益を上手く回し、更に自身を向上させるのに上手く役立てていますよね。クリエイティブ面でも、出すところには出し、締める部分は締めないと、MERZのようなブランディングは成立しづらいのでは?

小林

正直、その辺りは無自覚なところは多いです。ただ、幾らかけたからこれぐらいいいものが出来るとかの発想が他とはちょっと違っていて。もちろん製品としてのクオリティもあるけど、そこに自分たちが込める精神性や魅せ方によって、価値は変わることも、やっていくうちに分かったんです。

━それは例えば?

小林

去年、僕たちは自主企画を多数打ち、そこでゲストへのギャラを払う目的もあり、資金力をつけるべくメンバー手刷りのTシャツを販売したんです。そこにはメンバーの手刷りと一点ものという付加価値、それからこだわりが細かく具現化出来る、というメリットがあり、自ら制作しました。そこで学んだのが、その付加価値の有効性と、時間と体力の有限さです(笑)。手刷りをした結果凄く疲れて、本来自分たちがしなくてはいけないことまで出来ないくらい、時間と体力が削られちゃったんです。その時に、「ああ、その道のプロって必要なんだな…」と感じたんです。そこに、こだわる贅沢はあったけど、それを大勢に届けるには、同時にその分のTシャツを自分たちで刷らなくてはならないわけで。

ケンゴ

ギターを持たずに作り続けた日が何日もありましたから(笑)。「わしゃ何屋じゃ?」って。腱鞘炎になりそうになりましたもん。冗談で「俺たちの方がヤバいTシャツ屋さんだ!!」なんて言ってました(笑)。

小林

それも自分たちでやって初めて分かったことで。でも逆に、それが有効な場合もあるんです。クラウドファンディング(ライヴDVDの制作費用の一般募集)の時がまさにそれでした。感謝の気持ちのこもったものをリターンしたかったから。なので、今後も付加価値や精神性の部分で必要な場合は、あえて自分たちで手を加える行為はしていくと思います。その手法自体や目的自体に偏り過ぎず、なるべくフラットでいることが、自分たちにとってのバランス感覚を保っているポイントでもありますから。

ケンゴ

結局、カッコイイかどうかが価値基準なんで。それにどう切りこんでいくかをその都度考えています。

━ブランドとしてのMERZを最終的に持っていきたいポジションを教えて下さい。

小林

そうなる為の努力はしてませんが、モノとしての魅力が独り歩きするのはいいことだし、そうなれたらいいなとは思っています。『いいモノを作る=モノとしての魅力を感じてもらう』ことでもあるので。「僕らのことは好きじゃないけどアイテムは好き」なんてことがあってもいい。自分たちが、「これだったら人から対価をもらえる」と胸を張れるものを残し、結果、ブランドとして認められたらいいですね。

ケンゴ

そもそもが自分たちが欲しいもの、着たいもの、持ちたいものを作ることが前提ですから。なので売れるけど、自分たちの中ではダサいと思われるものは作ってもしょうがない。そういった一貫性は、つらぬいていきたいですね。

━では、マネジメントとしてのMERZが目指しているところは?

小林

他人と関わったことで、お互いがメリットになることを増やしてはいきたいです。けっしてマイナスにはせず、最低限でもプラスマイナスゼロは守っていきたい。あとは、自分たちが価値があると思えることを信じると同時に、お客さんをあなどらない。お客さんの感性を信じることが、ある意味、自分たちのアティチュードでもありますから。

ケンゴ

そうそう。ごまかしたり、舐めたことをすると見抜かれますからね。

小林

少なくとも、モノを作る以上、世界にはこれを好きになってくれる人が居ると信じれるものを作り、それを好きになってくれる人たちの期待を裏切らない。その期待を裏切らないということは、媚びないというのと同意語であって。媚び始めることで最初の裏切りが発生しますからね。

ケンゴ

それらも含めて、お客さんを舐めないというのは凄く大事なことでもあるんです。

小林

信用って取り戻せると思っちゃダメですから。例え、別の何かでごまかせたとしても、けっしてそれは失った信用を取り戻したのとはイコールじゃない。昔、いかに相手に対して自分たちが失礼や無礼であったか、それも自分達で運営してようやく分かったことでもあるんです。

━今後、MERZのようなスタンドアローンでの活動をしたいアーティストへのアドバイスをお願いします。

小林

そういう活動は、自分が無知であることとの対峙から始まるものです。無知であることは、どうにでもなれるのと同時に固定概念との対峙の連続であって。それを一つ一つ疑い、新たな何かを信じ直していく。それが必要だし、そうせざるを得ない。基本は、「自分が本当に価値を感じているのは何なのか?」「自分に向き合うことに飽きずにやれるか?」ですから。まずは自分の感性を深めたり、自信を持つことから始まるんで。僕らもその都度、必要なことや本当に大事なことだけは譲らず、それが結果的に今のMERZに繋がっているところもあるので。とは言え、僕らもようやくここにきて、「MERZの個性」が分かり始めてきたところなんですが(笑)。

ケンゴ

CDが売れないとか、金にならないとか、悲観的に言う人たちっていますよね。僕らはその辺り、シリアスだけど、あまり悲観的ではなくて。音楽って、この何千年もの間、無くならなかったですよね。それって音楽の凄さでもあると思うんです。CDが売れなくなったぐらいで音楽は無くなるわけじゃない。その辺りをブレずに信じられるかってところでしょう。それと一緒で、自分がカッコイイと思ったものは何でカッコイイのか、世の中にはかっこいい服を、かっこいい値段で売っている例も沢山ある。そこをキチンと目指し続けていられるか。自分がいいと思ったことは凄く尊いものだし、それに対して、絶対に舐めたり、打算的になっちゃダメなんです。ごまかしや舐めたことは絶対に気づかれるものですから。

INTERVIEW & TEXT:LUCKAND
PHOTO:伊藤惇

THE NOVEMBERS

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