2018.09.21

ビーマイベイビー 信藤三雄レトロスペクティブ

信藤三雄(アートディレクター)

1980年代より活躍し続けている日本を代表するアートディレクター、信藤三雄。松任谷由実、ピチカート・ファイブ、Mr.Children、MISIA等々、彼がこれまで手掛けてきたCDジャケットはのべ1000種以上。どれもが多くの人になじみのある作品ばかりだ。
そんな氏による1980年代制作の初期作から最新の仕事までのアートワークを、レコード、CD、ポスター、写真、映像など1000点以上にわたる作品を通して紹介する展覧会が行われた。

『ビーマイベイビー 信藤三雄レトロスペクティブ』
■日時:2018年7月14日(土)~9月17日(月・祝)
■場所:世田谷文学館

この展覧会では信藤三雄が手掛けてきた作品のうち、ポスター約250枚、CD約800枚、レコード約100枚が展示されており、他にも自筆の創作メモやモチーフ、アイデアの源である日記やラフ画の資料も多数、他にも販促物や特典、特殊パッケージやBOX仕様といった展示物が約150点、総展示資料数は1300点に及んでいた。その壮観はまさに圧巻。と同時に、氏の手掛けてきたそのワークスの多さに圧倒されつつも、その中でも多くのものが実は自身でも所有していたりして、その発見の度に嬉しさが込み上げた。
そして、その物量に加え、扱う幅の広さにも驚いた。まさにジャンル横断というべきか?改めて氏のアートへのフレキシブルさや偏見の無さを垣間見ることが出来た。


主に1990年代はレコ―ド産業もバブル期。当然、アートワークやパッケージにもお金がかけられ、その分、今では考えられない豪華な仕様や贅沢なパッケージも多く、が故の、所持しておきたいとの欲求を起こさせていたのではないかとも改めて感じた。

元々この展覧会会場の世田谷文学館とは、氏がまだ同じ世田谷区に事務所を構えていた頃からの付き合い。2007年9~11月開催の「植草甚一 マイ・フェイバット・シングス展」のポスターを手がけた際からだと言う。今年古希(70歳)を迎えた氏に、「この機会にこのような展覧会をやりませんか?」と、文学館から打診したことから今回のこの展覧会が実現した。

貼られるのみならず、立ったまま眺められる、つるされたポスター類やアナログ盤、壁には流れや形をCDジャケットたちが形どり、氏とゆかりの深い渋谷系アーティストや90年代に特化した展示コーナーの設置。エポックメイクな作品の立体化やオブジェ化、あえて大判で写真を引き伸ばしタペストリー化させたり等々、その展示方法にも目を見張るものがあった。それら展示会場のデザインはCorneliusや水曜日のカンパネラなどのコンサートの舞台美術を制作した遠藤治郎が担当。それを訊き、なるほどとうなずいた。美しく、流れを感じ、且つインパクトもある、その展示方法やディスプレイも、今となっては想い出深い。

なかでも驚いたのは、その多忙な中、これほどまでに多くの作品を手掛けながらも、キチンとその細部にまで「アートワーク性」や「デザイン性」の注入を怠っていないところであった。当時はジャケットでも仕様別に何パターンものフォーマットが存在した。それら全てを一様にするのではなく、それぞれで最もキャッチーでインパクトのある、レイアウトやデザインが組まれていたことを改めて発見した。

また、昨今のグラフィックデザイナーやアートディレクター、デザイナー陣と圧倒的に異なるのは、モードを経てのデザインであることだろう。モード、アート、ユーモアやジョークも織り交ぜ、軽さや軽やかさの時代の中、その時代の空気感や雰囲気、肌や匂いでしか感じられない「時代性」を、あえて時空を超えて蘇らせたり、時にリアルに描いてみたり、それらをブレンドさせたりと、例えば「1990年代に想う1960年代」であったり、はたまた「1990年代に想う2020年」だったりと、その時空を超えて様々な時代へと佇ませてくれた。

そして思っていた以上に、1990年代はアイキャッチさやインパクト、伝えたいこと訴えたいことが凝縮されていたことにも改めて気づかされた。さりげなく、なにげなくが2000年以降一般的になってはいるが、逆にその1990年のあのデザインこそが、ものを手に入れたり、固有のものにしたい、保有したい、との欲求に結びついていたのではないかとも感じた。

この展覧会には展示物に一切のキャプションや説明が無かった。それらは、氏の各々個々の思い出を大切にしながら、余計な情報や予備知識や確認事項なく、自由に想い出等に浸って見て欲しいとの氏の配慮がなされていたことに他ならない。

私はこの展覧会に、まさにどんぴしゃな世代。が故に、正直もっと懐かしく感じるものかと思っていた。しかし、実際に足を運んでみると違っていた。確かにひとつひとつで思い入れや懐かしさはあったにせよ、新鮮さや色あせなさ、インパクトは現代でも新鮮。逆に時代を経てわかるものや斬新に映るもの多かった。そして個人的には、なんだかそれがとても嬉しかった。

TEXT:LUCKAND
PHOTO:世田谷文学館

信藤三雄(シンドウミツオ)

アートディレクター、映像ディレクター、フォトグラファー、書道家、演出家、空間プロデューサー。
1986年、コンテムポラリー・プロダクション設立。 松任谷由実、ピチカート・ファイヴ、Mr.Children、MISIA、宇多田ヒカルなど、 これまで手掛けたレコード&CDジャケット数は約1000枚に及ぶ。 その活躍はグラフィックデザインにとどまらず、数多くのアーティストのプロモーションビデオも手掛け、 桑田佳祐「東京」では、2003年度のスペースシャワーMVA BEST OF THE YEARを受賞。 同年には、松任谷由美トリビュートコンサート(武道館)の演出を務める。2008年には「Child AFRICA」の立ち上げに協力、2010年に設立された「一般財団法人mudef」の理事を務めている。
2011年、株式会社信藤三雄事務所設立。 近作に、KEITA MARUYAMAブランドロゴデザイン、LAPLUME(Samantha Thavasa)広告デザイン、 「洋服の青山」TV-CF“坂本龍一篇”、「XSOL」TV-CF、厚生労働省Smart Life Projectポスター、 日本酒「笑酒来福」パッケージデザイン、三上博史WEBサイトディレクション、 CDジャケットでは、MISIA、筒美京平、ドレスコーズ、等々を手掛けている。
http://snd320.net/

世田谷文学館

所在地:東京都世田谷区南烏山1-10-10
「世田谷固有の文学風土を保存・継承し、まちづくりの活性化に寄与することをめざす文学館」、「区民の文化交流の場と機会をつくりだし、新たな地域文化創造の拠点をめざす文学館」を基本理念として、1995年に東京23区では初の地域総合文学館として開館。文学を中心に、それにまつわるまたは感じさせる文献、アート、音楽、漫画、映画等々をクロスオーバーさせた企画展、コレクション展を数多く行っている。
<次回開催>
筒井康隆展:2018年10月6日(土)~12月9日(日)
筒井康隆初の大規模展覧会いよいよ開催!
『時をかける少女』『七瀬ふたたび』『虚人たち』『虚航船団』『旅のラゴス』『残像に口紅を』『文学部唯野教授』『モナドの領域』…、エンターテインメントと純文学の垣根を自由に越境、常に読者を驚かせ、魅了し続ける作家・筒井康隆。既存の文学・概念をぶち壊し、その文学を形容することばを探しても、並べたその先から陳腐化してしまう、完全降伏せざるを得ない唯一無二の存在です。2018年世田谷文学館は現代文学最高峰「筒井康隆」に挑みます。すべてにおいて規格外のこの作家の魅力を、初公開の原稿ほか多彩な資料と、独創的な展示空間でお伝えします。
https://www.setabun.or.jp/

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