2020.03.26

アナログ盤化が生むアナザーストーリー

フジファブリック「アナログレコード盤」マスタリング/カッティング」現場レポート

待望のアナログ盤化されたフジファブリックの2枚のアルバム『アラカルト』『アラモード』の制作過程を基に、主に音の再生の際、最重要となる2つの作業、「マスタリング」と「カッティング」、とりわけ「カッティング」を中心にレポート。それぞれに潜入。その製造過程を紹介するとともに、それぞれが生まれ出る現場に潜入。その工程やポイントを紹介すると共に、カッティングマスターにも様々な話を訊いた。

【東洋化成アナログカッティングエンジニア・手塚和巳氏・インタビュー】

「失敗して失敗して、逆に成功の感覚を掴んでいく」

今回の『アラカルト』『アラモード』両盤のカッティングを担当した、東洋化成アナログカッティングエンジニア : 手塚和巳さんにカッティング後にお話しをお伺いしました。

━手塚さんはここまで40数年、この東洋化成にてカッティングエンジニア一筋でやられてこられたのですか?

手塚

一筋というわけでもありません。間の10数年はカッティング業務ではなくて、「CDセンター」という会社でマスタリングを行っていた時期もありました。また最近、こちらに戻ってきて、アナログのカッティングを再び行っています。CDセンター時代も、こちらにカッティングエンジニアが居ない状態ではあったので、並行してこちらに来てカッティングは行っていました。

━元々カッティングエンジニアとしての仕事をしたく、この東洋化成さんに入られたと。

手塚

いや、実はそうでもなくて。入社して配属されたのが、たまたまこの部署だったんです。というのも、入る際も東洋化成はレコードを作っている会社であることは知ってましたが、このような部署があることすら知りませんでしたから。

━カッティングエンジニアは感覚が重要視される仕事のイメージがあります。かなり熟練しないとできない仕事なのでは?

手塚

そんなことはないでしょう。ベーシックな部分さえ覚えてしまえば、あとは感覚を養うだけなので。自分もベーシックなところは教えてもらいましたが、以後は後ろから見て覚えていきました。

━ちなみに、その「感覚を養う」にはどうしたら良いでのでしょう?

手塚

実践ですね。失敗して失敗して、逆に成功の感覚を掴んでいくというか。僕もものすごく沢山失敗してここまで来ました。

━その「カッティングエンジニアにとっての失敗」ってどんなことだったりしますか?

手塚

盤に溝が入り切らない。これが最もです。決められたスペースの中にキチンと収めなくてはならないですから。この作業は途中で失敗したからといって、そこから再びというのが出来ないんです。なので、失敗したらまた最初からやり直し。その連続でした。

━30cmの盤の中にきっちりと収めていたのには感心しました。

手塚

メーターをよく見て微調整しているのはそのキッチリと盤の中に収める為でもあったんです。メーターが指す、「何本か?」をキープしていれば、この分数や音量であれば、このサイズの盤であれば入り切る。そのアベレージ感覚を肌や目で覚えているんです。それもやはり失敗を繰り返して身についた感覚でもありました。でも実際は、それは溝を切っている時点でメーターを見て調節しているだけではなく、ヒアリング(カッティングの前に確認用に音を再度聴く作業)の時点で見て判断、把握して挑んでるんです。

━手塚さんの下の世代でもこのカッティングエンジニアはおられるんですか?

手塚

います。この会社にも30代と40代の男性が既に一人前になり行っています。

━その方々は最初からカッティングエンジニアになりたくてこの会社に?

手塚

でしょう。その募集をかけたところ応募してきたので。

━今、「マスタリングエンジニアになりたい!!」という方がおられたら、どのようにしたらなれるものなのでしょう?

手塚

今はカッティングをやっている会社も私共(東洋化成)だけでなく4箇所ぐらいあります。どこかそれらの会社に応募してみたら良いのでは?会社の方がスタジオ業務ということもあり、他にも色々なことを学べるのではないでしょうか。

━最後に。この職種をやるにあたり必要となりそうなものは何でしょうか?

手塚

この仕事が好きであることでしょう。それは「音楽が好き」とはまたちょっと違っていて。いわゆるモノづくりが好きかどうか?に近いというか。逆にモノづくりが好きじゃないと務まらない仕事だとも思っています。

PHOTO:西槇太一
協力:(株)ロフトプロジェクト 樋口寛子

フジファブリック『アラカルト』『アラモード』アナログ盤 特設サイト

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