2016.11.15
げみの描く音、武市和希の歌う絵
げみ(イラストレーター)×武市和希(mol-74)
「ずっと一緒にものづくりしていきたいな...。」取材後、げみはポツリと呟いた。現在書籍の装画を中心に人気の高い彼が、mol-74のCDジャケットでイラストを描き始めたのは2012年。その後、今年8月にリリースしたニューアルバム『Kanki』に至るまでの約4年間、mol-74作品ほぼ全作のアートワークを担当。武市和希(Vo,Gt,Key)との出会いや、『Kanki』ジャケットイラストのイメージ、互いの関係性などをインタビューした。
「挿画は著者さんへの最初のプレゼントのような物だから」(げみ)
—ジャケット制作はイメージを伝えることから?
武市
はい。それに対してげみさんが、構図など具体的で明確なアドバイスをくれるんです。
げみ
イラストレーターは翻訳家だと思っています。アーティストの方は、要望や言葉そのものに力があるので、モルカルの場合も最初に彼らが持つ個性を全力で理解して、それをまだ知らない人たちにどう届けるかを考えるんです。もしそれがトゲトゲな個性だとしても、「こう表現した方がもっと“宝物”になるような形に出来るかもしれないよ」と。
武市
同じ発信する仕事なのに、アウトプットの違いが面白い!まさにこれが「共創」。
—げみさん作品の特徴のひとつが人物。特に女の子だと思うのですが、最近のモルカル作品のジャケットに人物が登場していませんよね。
武市
それは僕のリクエストです。全曲通してある程度一貫性を持ったジャケットにしたいというこだわりがあるので、最近の作品では抽象画のようなイラストを描いてもらっています。イメージの伝え方も抽象的ですけど。「ピンクっぽくてぼやけていて」のような(笑)。 それをきちんと汲んでくれるのが、げみさんのすごいところです。
げみ
確かにそういう注文をしてくるのはモルカルだけ(笑)。でも楽しく描かせてもらっているし「こんな絵も描けるんだ!」という発見もある。しかもモルカルのジャケで描いた質感の表現を、後々違う作品の中にも出したりしてしてるよ。
武市
タッチが変わっても、やはりげみさんのイラストは素晴らしいし、作品全体が繊細で、憂いやノスタルジーに溢れているんです。
げみ
今はもう坊主頭の男が描く絵ではない?
武市
そうそう。最近やっとイメージ通りになってきた(笑)。
げみ
僕はモルカルの作品に、冷たい塊の中に暖かいものが入っているようなイメージを抱いています。氷を持っているのに暖かいような。でも寒いわけではなく、心地よく涼しいというか。絵は音楽や小説からインスパイアされることがあるけど、音楽を作る時はなにかある?
武市
ありますよ。実際“エイプリル”は、小説『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』にインスパイアされ、実際その場所へ出向いて歌詞を書きました。舞台が京都だったからイメージもしやすかったですし。
げみ
あの曲すごく良いね。『kanki』はかなり聴いている。モルカルのライヴには行くけど、その他の活動や動向もすごい気になってる。
武市
そういう意味では僕も同じ。げみさん初の作品集が重版出来の知らせを聞いて、驚くと同時に嬉しかったですし、本屋さんでげみさんが装画担当した本を見ると、早く追いつかなくてはと感じています。
げみ
挿画はいくら自分で良いと思えるものを描いても、作品自体に惚れ込んでも出版社さんが推してくれないとツイッターの告知だけじゃどうしても人々に届かないと言うときはある。そういう意味ではイラストの無力さも感じることはたまにあるけど、それでも良い装画は描く。売れてほしいし、書店で目立ってほしい、それに何より著者さんへの最初のプレゼントのような物だから。
—げみさんのイラストは全て液晶ペンタブレットですよね。
げみ
はい。Cintiq27QHDを使っています。
武市
僕はアナログ人間なので、デジタルに絵を描くイメージが湧いてこないです。細かい表現が難しそうに感じてしまう。
げみ
逆にデジタルはどこまでも細かく描いたり色を設定出来る。だから明確な完成のビジョンがないといつまでもいじれちゃう。完成を見極める力や決断力は必要になってくると思う。
—大学では日本画を専攻されていたとのことですが、げみさんの作品からは日本画美術団体の、例えば「院展」のようなイメージが感じ取れます。
げみ
まさに僕は院展が好きなんです。院展は綺麗で精密。そういう絵を見ながらデジタルで描こうと思ったんです。
<NEXT 3/3>「実体験から感性を磨かなくては、本物に近づくことは出来ても本物になることは出来ない」(げみ)
「手間がかからないメリットにはきちんと落とし穴がある」(武市)