2017.11.16

イラストレーターから芸術家への過渡期

福井伸実(恋する絵描き)× 笛田サオリ(さめざめ:ミュージシャン)

 ゲスの極み乙女。、アルカラ、さめざめ等、これまで幾つものミュージシャンのアートワークに携わってきた「恋する絵描き」こと福井伸実。彼女の描く絵は独特の配色や色使い、表情や水彩感を含め肖像物の心の言葉を観るものに察しさせる。
 そんな彼女が2017年11月14日~26日に、原画展「また日の目を見る」をLUCKAND-Gallery Cafe&Bar-にて開催する。これまでに彼女が手がけてきたアートワーク原画の展示に加え、それらを今現在の彼女が自身のルーツでもある油彩で描いた新作も加えられる。「イラストレーターから芸術家への過渡期」を自覚する彼女の過去、現在、そしてこれからが存分に伺えそうだ。
 今回そんな彼女を、長い間共にモノづくりをしてきたアーティストとの対談により、掘り下げて紹介する。お相手は福井を世に知らしめたとも言えるミュージシャン・さめざめの笛田サオリだ。長年親交も深く、ユニット「ぜんぶ夢みたい、私ここにいるのに」としても活動中の両者。共に女性を主なモチーフに、その主人公の伝えられない胸の内や叫びを絵や歌を通じ、「この私の気持ち分かってよ!」と言わんばかりの作風を始め、互いの発信メソッドは異なれど共通項も多い。
互いに高め合い、幾つかの変革期を乗り越えてきた両者が故に語れる内心を数多く訊くことが出来た。

「自分のことを描いた絵に、観た方の自分なりのストーリーや背景を投影してもらえるのが理想」(福井)

—福井さんの絵のモチーフは基本、女性ですが何かそこに理由でも?

福井

女性にはこだわってます。モチーフに関しては、基本的には非常に個人的なことを描いているので、女性の方が自己投影できるんです。見ている人ではなく自身が感情移入できる。言い替えると、どの絵も私でもあるんです。

—恋をしている感じが絵から滲み出てくる画風も多いですが、これは?

福井

もうそのまんまです。いま恋をしてるから、そのような感じが出ちゃうんです。

—では、福井さんにとって恋というのは絵を描く上で重要なファクターだったり?

福井

重要ですね。自分を隠さず思ったことを思った通りに描いているので。

笛田

それこそ「恋する絵描き・福井伸実」を名乗っているぐらいなので、絵のど真ん中に恋は常にありますよ。先日行われた個展でも愛が溢れていたし。人間って環境や心境でこんなにも変わるんだな、と改めて実感しました。

—笛田さんから見た福井さんの絵の魅力ってどんなところだと思いますか?

笛田

観ていただければ理解いただけると思うんですが、とにかく原画が凄いんです。あれをどんなに精密に作品化したり印刷しても、実際のあの原画には全然勝てない。彼女の色使いは印刷を通すと、どこかフィルターがかかってしまうようで。さめざめも単独ライヴの際は原画を借りて展示させてもらって、あの凄さをより伝えられるようにしているんです。各絵の水彩の色具合とかは原画を観ると鳥肌が立ちますから。

「さめざめ/東京ポルノ」ジャケット(Artwork by 福井伸実)

—分かります。私も福井さんの絵の重要な部分は、あの独特の色の滲ませ方や色の重ね方だと感じています。

福井

CDジャケット等はインパクトがあった方が良いので、その辺りは狙っている面もありますが、基本、色は置いていて気持ちの良い色を配置していく感覚が強いです。

—あと、見たまんまの色を使っていない。

福井

自然に出てきたり浮かんでくるものに従って、描きながら同時に色をつけています。まずはサイズを決めて、取りあえず手を動かしていき、気づいたら完成している感じで。無意識に描いていて、気づいたらこうなってたってパターン(笑)。狙っても描けないんですよね。逆に考えながら描くと手が止まっちゃうタイプです。

笛田

前々から黒や茶色を使わない娘だな……と思っていて。だけど、それが彼女なんですよね。私の中ではのんちゃんは芸術家ですから。

—先ほど、「大学時代、観る者に何か伝えたいことがないとダメなんだ〜」とおっしゃってましたが、以後そのあたりの実践は?

福井

結局、出来てないですね(笑)。訴えたい、伝いたいことは特に無いけど、自由に、勝手に共感してくれたら嬉しいです。私は自分のことしか描けないので、自分のことを描いた絵に、観た方がそこから自分なりのストーリーや背景を投影してもらえるのが理想です。

—とは言え、実際の絵はけっこう何かを伝えたい顔をしているような…。どれも色々な感情が入り交じった表情にも見受けられます。幸せになり切れず、幸せに恋をしている、みたいな。

笛田

確かに、いつも何か満たされていない表情ですよね。

福井

人間の感情自体が複雑ですから(笑)。

笛田

全然哀しい顔をしていないのにも関わらず、哀しい顔に映るのが、のんちゃんの絵の不思議なところで。どの絵も、暗い表情や涙を浮かべたり、流しているわけではないのに哀愁が漂っていたり、泣いているように映ったり。あえてそこまで描かずとも、観る者にそこまで感じさせたり思わせる表情を描けるのは凄いです。

福井

そう見えたらいいなと思い描いているので、その感想はとても嬉しいです。

 

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