2018.07.26
価値観は二人の手で作り出してもらいたい
増井元紀(JAM HOME MADEディレクター)
”ジャムセッション”。ジャズミュージックにおいて、プレーヤー同士が集まって行われる即興的演奏を指すこの言葉を、その名に冠したアクセサリーブランド『JAM HOME MADE(ジャムホームメイド)』と、そのディレクターを務める増井元紀。今年で創立20周年を迎え、スタートの地である千駄ヶ谷に再び旗艦店をオープンさせて挑む原点回帰。そして、今や同ブランドを象徴するアイテムとなった「名もなき指輪」に込められたモノと人への想い。すべてが希薄になったといわれるこの時代で、今までにない価値観の創造にチャレンジし続ける男のモノづくりとは。
「元々、学生時代から“残るモノを作っていきたい”という想いがありました」
—1998年にスタートし、今年で20周年を迎えたJAM HOME MADEですが、そもそも増井さんはどこでジュエリー制作の技術を学ばれたんですか?
増井元紀(以下、増井)
1994年に桑沢デザイン研究所のプロダクトデザイン科を卒業し、卒業後の進路として「日本一のジュエリーデザイナーは誰か?」と探した時に知ったのが、石川暢子さんと彼女の手掛けるNOBUKO ISHIKAWAというジュエリーブランドでした。僕はそこで修行して、ジュエリー制作の基礎となる部分を学び、その後1998年に現代表の高橋とJAM HOME MADEをスタートさせました。今季で54回目の展示会を迎えます。
—増井さんのデザイナーとしてのキャリアはジュエリーデザイン、それもブライダルリングからスタートしたと伺っています。意外に感じる方も多いと思うのですが。
増井
元々、学生時代から“残るモノを作っていきたい”という想いがありました。そこから宝石やゴールド、プラチナなど普遍的かつ不変的な素材に興味を持ち始めたのが、ジュエリーデザインを始めたキッカケです。そして、先ほども言った“残るモノを作っていきたい”と考えた時に、親から子、さらに孫やその先の世代まで、受け継がれて残っていく存在として行き着いたのがブライダルリングだったんです。さらには、誰かを愛する気持ちや心の中にある見えない想いをカタチにしたものであり、普通のアクセサリーとしての指輪と見た目は同じただの輪っかでも、持ち主にとっては特別な意味がある。そういう部分に強く惹かれていきました。
—なるほど。過去には断面が血液型を表している指輪(2004年発表の「NEW TYPE」)などもありましたし、今季でいえば実際に将棋盤として対戦することも可能なTシャツのワークショップなど、JAM HOME MADEでは、人とモノの繋がりによって意味や価値が生まれるようなプロダクトが数多く見受けられます。
増井
そうですね。ブランド名にも入っているJAMの由来はジャムセッションからなんですが、そのひとつの空間の中で色んな音同士がシンクロしていくような感覚を、人とモノの関係にも置き換えられるというのが根底にあります。そういう意味でも僕らが作るプロダクトには、色んな見方や捉え方が出来るという共通性があると思います。
—現在でも人気の高い安全ピンモチーフなんかも、人によってイメージや使い方が変わるという点ではまさにそうですよね。また、既成概念に捉われず、自由かつバリエーションに富んだデザインは同ブランドの特徴だと思うのですが、そういったアイデアってどこからくるんですか?
増井
一言で表すと“思いやり”でしょうか。指輪の場合なら、ソレを作る職人さん、運ぶ運送業者さん、売るショップスタッフさん、実際に使うお客さん。そしてモノの気持ちになって考える。というのがありますね。そうなるとモノ自体も人に永く使ってもらえた方が嬉しいだろうなって。例えば「BUBBLE RING」(内側に特別な加工が施されていて、シャボン玉を作ることが出来る指輪)だったら、その指輪でシャボン玉を飛ばして遊んでいた子供が成長し、再びその指輪を手に取った際に「お父さんがこれでシャボン玉を作って遊んでくれたよね」と思い出せる。在りし日の記憶を蘇らせる装置というか、そういう存在になれたらなと考えてデザインしています。
—非常にロマンチックですね。またJAM HOME MADEといえば、様々なパートナーとのコラボレーションが、毎シーズン話題になっていますよね。
増井
僕らはコラボレーションすることもジャムセッションとして捉えているのですが、同業種はもちろん異業種とのセッションによって常に新たな発見もあるので、「今度は何ができるのか?」と毎回楽しみにしています。
—やはり先方からのアプローチで始まるケースが多いんですか?
増井
そこは本当にケース・バイ・ケースです。例えば『交響詩篇エウレカセブン』というアニメとコラボした時は、制作会社であるBONES代表の南さんが、ウチがX’mas用に制作したマカロン(2007年に発表した、洋菓子のマカロンをリアルに模したリングケース。本物のマカロンと一緒に置くことでサプライズを演出できると話題に)を見て面白がってくれて。その縁で同作品の監督である京田さんとお会いして「何か一緒にやろう!」という流れになってコラボが決まったりとか。大体、どこかでご覧いただいたウチのプロダクトに引っかかってもらえて、という場合が多いですね。
—中には、コラボレーションに際し厳格なレギュレーションを設けているブランドもありますが、増井さんはコラボ相手に何を求めますか?
増井
こちらから何かを求めるというのはまったくないですね。今まで色々なブランドさんや企業さんとコラボさせてもらいましたが、みんなそれぞれの個性があって、それが僕らと共にモノ創りをすることで、どんな化学変化が生まれるのか、何が起きるのか? それがジャムセッションの醍醐味で面白さだと考えていますので。
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