2017.08.14
独学を突き詰めた先のオリジナリティ
河野愛(イラストレーター)
本格的に活動を始めて今年で10年。現在は雑誌、広告、映像、WEB、CDジャケット等、幅広いアートワークに携わっている河野愛。モノクロで緻密な線画、いわゆる「細密画」と称される作風で人気の高いイラストレーターだ。細かい線画が織りなす緻密に描きこまれたその画風は、時として見る者に妙なリアリティやファンタジーを与えてくれ、その絵の続きの世界を想像させるものばかり。
そんな彼女が、この10年間に描いてきた作品の原画を一挙に展示する「河野愛 原画展『MY DRAWINGS』」を8月15日(火)~8月27日(日)にLUCKAND-Gallery Cafe&Bar-にて開催する。これまで作品としては色々なところで目にしてきた彼女の絵だったが、今回はこれまで間近ではけっして見ることの出来なかった貴重な原画の数々が展示される。彼女の肉筆感や繊細さがより伝わってくるそれらを、是非観に会場へ足を運んで欲しい。
そんな彼女に、イラストレーターとしての10年や彼女自身の絵について、そして今回の展示にまつわる貴重な話のあれこれを伺った。
「この10年間変わらなかったことは、自分の持っている世界観を壊さずに絵を描き続けることが出来たこと」
—クライアントさんからはどのような発注が多いんですか?
河野愛
様々ですね。ただ依頼のほとんどが「●●を河野さんテイストでお願いします」で。むしろ私の方から色々と訊き出して、それを絵にしていくパターンが多いかも。“そのリクエストの中で自分のテイストをどう出そうか…?”とか。私の場合、いつ誰が見ても、“河野愛の絵”と分かってもらえる要素を必ず入れ込みたいと挑んでいます。
—河野さんの絵は、主に動物や植物をモチーフにしたものが多い印象があります。何か王国感があるとでも言うか…。いわゆる河野王国に居る動物や、はえている植物が描かれている、みたいな。
河野愛
そういったところはあるかもしれません。私の場合、現実にあるものを絵で表そうとした際に自分の中で変換させているんで。それを紙に描いた際に世界観として表れるんでしょう。逆を言うと何を描いても自分らしさが出ちゃうのかもしれない。基本、直感だけで描いているんで、煮詰まることもないですからね。
—それは羨ましい。
河野愛
その辺りは、私が絵を描くのが好きだというのが根底にあるからなんでしょう。私にとって絵を描くって日常の一環でもあるんです。それこそごはんを食べたり、歯を磨いたりするのと同じレベルの行為で。なので、描き出すとアイデアが湯水のごとく浮かんでくるところもあって。それに従って描いているだけなんです。
—では、スランプ等に陥ったりは?
河野愛
ほぼありませんね。とは言え、クライアントさんからの依頼の場合は、それを汲み取ったり、価値観のすり合わせ等、反映させるべく色々と考えたり、悩んだりはあります。今はメールのやりとりのみで完了することも多々ありますが、基本はキチンとお会いして打合わせをし、温度感や細かいニュアンス等も確認してから仕事に挑みたいところはあります。その方が絶対にお互いが望んでいる、より良い仕事が出来るし、物事もスムーズに進びますからね。
—それから、河野さんの絵からは、凄くファンタジーさやメルヘンみたいなものも感じます。
河野愛
その辺りは逆に私がリアリストだったりするからかもしれません。全部空想だけでなく、リアリティも織り込んでいるので。そこが自分テイストなんでしょう。
—基本、絵はモノクロのものが中心のようですが?
河野愛
それは私が使っているペンが上から色を乗せたりするのに合わないところにも関係しているんです。一般的に私の作品は、モノクロのイメージが強いみたいなんですが、けっこう色のついた作品もあって。それらはパソコンで色をつけています。基本、私の場合、イラストは描きますが、それ以降のデザインやレイアウトはデザイナーさんにお任せしているんです。いわゆる描くだけで終わり、みたいな。なので完成品を見て、“おお、こうなったのか!”と感心することも多々ありますよ。
—あと、河野さんの絵からは、凄く毛並にリアルさを感じます。
河野愛
毛並を描くのが大好きなんです、私。これだったら何時間でも描いていられる。毛並にしても、描き始めた頃はもっと平坦でした。当時は、そこまで陰影を意識しないで描いていたもので。さすがに今は、より立体的で実際にあるものに近く描けるようになりました。単純に描いてきて上手くなったってことなんでしょう(笑)。これも仕事を続けていくうちに自然と身についてきたことの一つで。なので、もし、「この10年間変わらなかったことと言えば?」と訊かれたら、「自分の持っている世界観を壊さずに絵を描き続けることが出来たこと」と答えるでしょうね。基本、常に今が一番いい状況だと思っていますから。
—凄く緻密な作業現場を想像しますが、実際の作業はいかがですか?
河野愛
私、ちょっとルーティーンを重んじているところがあって。部屋をある程度いつもと同じ状態にしてから仕事に臨むんです。でないと途中からそれらが気になってき出して、作業に身が入らなくなってしまって。だけど描きだしてからは速いですよ。描き進めると気持ち良くなってきちゃって、恍惚状態に陥っちゃうことも多くて(笑)。ノイズキャンセラー付きのヘッドフォンをして、自分の世界に入り込んで描くパターンが多いです。
—作業中は主にどんな音楽を聴いてるんですか?
河野愛
色々な種類の音楽を聴いてます。ペンのテンポと聴いている音楽のテンポが合ってくるとスピードもアップして。意外にペンのリズムに会うのは、ミニマルテクノやアンビエントの類だったりするんです。基本、声の無いものが好きで。いつも気づくと夜で、“あっ、もうこんな時間だ!”って(笑)。テンションが上がっている時は、描くペースも凄く速いです。
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